【2026年最新】日本の標準必須特許(SEP)最新スタンスと特許庁「交渉手引き」・審議会の議論ロードマップを徹底解説

News@ip-shiori.com

IoT技術の普及に伴い、自動車、スマート家電、産業用機械など、通信機能(4G・5Gなど)を組み込んだ「マルチコンポーネント製品」が市場の主流となっています。これに伴い、特定の規格を実装する上で回避不可能な標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)を巡るライセンス紛争は、異業種間へと拡大し、ますます複雑化しています。

日本政府や司法は現在、この巨大な知財リスクに対しどのようなスタンスをとり、実務者にどのような指針を提供しているのでしょうか。

本記事では、日本の産業構造審議会での最新の議論状況から、日本のSEPに対する基本的スタンスの「歴史的転換」、そして実務のバイブルである特許庁「SEPライセンス交渉に関する手引き」の核心まで、2026年現在の最新情報を交えて分かりやすく解説します。

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目次

1. 産業構造審議会・日本政府ではいま何が議論されているのか?

日本の知財政策を方向付ける「経済産業省 産業構造審議会 知的財産分科会」や特許庁(JPO)では、グローバルなSEP秩序の急速な変化に対応するため、主に以下の論点について激しい議論が行われています。

主な議論の論点

  • Beyond 5G(6G)時代を見据えた知財競争力の強化 日本の優れた技術を国際標準規格へ盛り込み、次世代必須特許(SEP)の世界シェアにおいて「10%以上を獲得・維持」するという国家目標の達成に向けた戦略的支援。
  • ライセンス取引の透明性とフェアな環境整備 2025年9月に政府が設置した「知財フェア取引に関するワーキンググループ(Working Group on Fair IP Transactions)」などの動きと連動し、サプライチェーン全体(部品メーカーから完成品ベンダまで)における公平なリスク・費用の分担ルールの精緻化
  • 日本を「グローバルな紛争解決の拠点」へ 欧州の統一特許裁判所(UPC)の進展や米国のSEPタスクフォースの動きに対抗し、日本の司法・ADR(裁判外紛争解決手続き)が世界のFRANDロイヤリティ紛争を主導するためのインフラ整備

今後の見通しと結論のタイムライン

日本政府はこれまで、2020年の「フェアバリューに関する考え方」や2022年の「誠実交渉指針」など、数年おきに実務の規範となる指針を策定してきました。

2026年現在、「東京地方裁判所による新プロトコルの公表(2026年1月)」や主要国の最新判例が出揃ったことを受け、これまでの行政指針(誠実交渉指針など)をさらにアップデート・実務へ浸透させるための議論が進められています。今後、産業構造審議会等のロードマップに基づき、AIアシスト発明の知財適正化やサプライチェーン内の下請け保護も含めた「新次元の知財取引適正化ルール」のブラッシュアップに向けた中間とりまとめや新指針の公表が随時行われる見通しです。

2. 日本の標準必須特許(SEP)に対する基本スタンス

日本の標準必須特許(SEP)に対するスタンスは、一言で言えば「FRAND(公平、合理的、非差別的)条件に基づく誠実な交渉による早期合意を大前提としつつ、不誠実なプレイヤーには厳格な司法処分を科す」というバランス型アプローチへと完全に移行しています。

これには、ここ数年で大きな「歴史的転換」がありました。

① 「実施者保護」が強かった時代(2014年〜)

長らく日本のSEP実務は、2014年の知財高裁大合議(Apple v. Samsung事件)の判決に基づき運用されていました。そこでは、「実施者がライセンスを受ける意思(交渉の意思)を示している限り、特許権者による差止請求は権利濫用となり認められない」と定義されていました(いわゆるFRANDディフェンス)。このため、日本は「世界的に見ても完成品メーカー(実施者)側に有利な国(差し止めが極めて難しい国)」と認識されていました。

② 日本初・SEP差し止め命令の衝撃(2025年6月)

しかし、この常識は2025年6月の東京地裁による「Pantech v. Google事件(Pixel 7対象)」の判決によって覆されました。 裁判所は、和解勧告後もライセンス料の算定に必要な情報を開示せず、交渉に非協力的な態度を取り続けたGoogleに対し、「ライセンスを受ける意思があるとは認められない(不誠実な実施者である)」と明確に判断し、日本初のSEP侵害を理由とする販売差止めを命じました

③ 2026年現在のスタンス:東京地裁の「新プロトコル」

この流れを決定づけたのが、2026年1月に東京地方裁判所知財部が発表した「標準必須特許(SEP)侵害訴訟に関する手続プロトコル」および「SEP調停手続」です。

この新プロトコルでは、以下のような厳格かつ具体的な実務が求められています。

  • 訴訟の初期段階から、裁判所主導による集中和解・調停手続きを強く推奨する。
  • 当事者が単に「交渉意思がある」と言い張るポーズを弾き、具体的なグローバルポートフォリオ全体のFRANDロイヤリティの計算根拠(トップダウン方式や比較方式など)を提示し合っているかという「実質的な誠実性」を評価する。

現在の日本は、形式的な誠実さではなく、客観的なデータをベースにした真摯な情報開示と、司法・調停プロセスへのリスペクトを強く求めるスタンスを採っています。

3. 特許庁「SEPライセンス交渉に関する手引き」の内容と役割

日本の行政(特許庁)が、交渉の現場をサポートするために作成しているバイブルが、「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」です(最新は2022年6月30日公表の「第2版」)。

本手引きの基本的な性質

本手引きは、法的拘束力を持たせたり新たな「規範」を設定したりするものではありません。国内外の最新の判例(英国・Unwired Planet事件や独・Huawei v. ZTE事件など)や経済分析を踏まえ、ライセンス交渉の各論点を客観的に整理した、予見可能性を高めるための解説資料です。

手引きの核心となる主な内容

手引きは、主に以下の3つの重要論点について詳細に解説しています。

① 誠実交渉のプロセス

経済産業省の「誠実交渉指針」と平仄を合わせ、以下の4つのステップにおける権利者・実施者それぞれの留意点をまとめています。

  1. 特許権者からのライセンス交渉の申込み 対象SEPや標準規格の特定、侵害していることを明示する資料(クレームチャート等)の提示
  2. 実施者によるライセンスを受ける意思の表明 申込みを受け、実施者が誠実にライセンスを取得する意向があることを合理的な期間内に表明
  3. 具体的なFRAND条件(ロイヤリティ)の提示 双方が具体的な算定根拠(トップダウンや比較ライセンス)を伴うオファーを出し合う
  4. 不調時の対応 交渉が膠着した場合は、第三者機関(JPOの必須性判定、仲裁、または2026年新設の東京地裁調停など)の活用を検討

② ライセンス料(ロイヤリティ)の算定方法

裁判所や実務で用いられる「トップダウン方式」(規格全体の累積上限ロイヤリティから特許シェアで比例配分する)と、「比較対象ライセンス方式」(既存の類似契約をベンチマークにする)の具体的なメカニズムを解説しています。 また、業界最大の発明ベースの論争である、通信チップやモジュールなどの部品価格を基礎にする「SSPPU」と、最終製品全体の価格を基礎にする「EMV」の両論を客観的に解説しています。

③ ライセンス対象となるプレイヤーの選定

サプライチェーン(部品メーカー、モジュールベンダー、完成品ベンダなど)のどの階層とライセンス契約を締結すべきかという論点について、「まずは特許権者が決定する立場(選定権)にある」という実務上の商習慣を整理しつつ、二重取り(Double Dipping)のヘッジの重要性を示唆しています。

参照情報リスト

本記事の執筆にあたり、公式に公開されている以下の主要な一次情報および法廷ドキュメントを参照・依拠しています。

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