【特許プール大再編】Samsungの勝訴から始まったVia LA「HEVC/VVCプール」買収の裏側

News@ip-shiori.com

ビデオコーデック(映像圧縮技術)のライセンス市場に、地殻変動が起きました。2025年12月、パテントプール大手のAccess Advanceが、競合であるVia LAのHEVCおよびVVCパテントプール事業を買収したのです。

一見すると突発的な業界再編に見えるこのディールですが、その背景には、巨額のロイヤルティとプライドをかけたSamsung(サムスン電子)とMPEG-LA(現Via LA)による足掛け数年に及ぶ「泥沼の長期訴訟」がありました。

本記事では、知財実務の歴史に一石を投じた「50%減額ペナルティ訴訟」の経緯から、昨年末の買収劇にいたるまでの全貌を公開情報に基づいて徹底解説します。

1. 紛争の火種:MPEG-LAの「50%減額ペナルティ」とは?

この壮大な法廷闘争の始まりは、MPEG-LA(後にVia Licensingと合併し、現在はVia LA)が運営していたHEVC(H.265)パテントプールのライセンサー規約にありました。

当時、このプールには「ライセンサーがプールを離脱する場合、過去および将来にわたってプールから受け取る分配金(ロイヤルティ)を50%減額する」という、非常に厳しいペナルティ条項が存在していました。

  • MPEG-LA側の狙い 主要な特許権者が離脱して独自のライセンス活動を始めたり、競合プールへ乗り換えたりすることを防ぐ(囲い込み)。
  • Samsung側の不満 莫大な数のHEVC必須特許をプールに貢献しているにもかかわらず、この条項はあまりに不当であり、ライセンサーの自由なビジネス展開を阻害する「報復措置」である。

Samsungはこの条項の違法性を主張し、プールからの離脱を契機として、ニューヨーク州裁判所に訴えを起こしました。

2. 司法の判断:Samsungの完全勝利

この訴訟は、パテントプールの契約条項(特に脱退ペナルティ)が法的に有効か否かを争う前例のないケースとして、世界中の知財関係者から注目を集めました。結果は、Samsung側の主張が全面的に認められる形となりました。

2023年12月:下級審でサマリージャッジメント(略式判決)勝訴

ニューヨーク州最高裁判所(下級審)は、Samsungが申し立てていたサマリージャッジメント(略式判決)を認める判断を下しました。裁判所は、MPEG-LAの「50%減額ペナルティ」条項について、合理的な損害賠償の予定ではなく、単なる不当な「罰則(Penalty)」であり、契約法上無効であるとの判断を示しました。

2025年10月:控訴審でも下級審の判断を維持

Via LA側はこれを不服として控訴していましたが、2025年10月、ニューヨーク州最高裁控訴部も下級審の判断を支持(維持)する判決を下しました。これにより、Samsungの法的な勝利が確実なものとなり、Via LA側はライセンサーの離脱に対して経済的なペナルティを科す強力な武器を完全に失いました。

3. そして2025年12月:Access Advanceによる電撃買収へ

控訴審判決からわずか2ヶ月後、市場は一気に動きます。

ペナルティ条項を無効化されたことで、Via LAのHEVC/VVCプールはライセンサーに対する求心力を維持することが困難になりました。これを好機と捉えたのが、長年HEVC/VVC市場でVia LAと激しいシェア争いを繰り広げていたAccess Advanceです。

2025年12月、Access AdvanceはVia LAのHEVCおよびVVCパテントプール事業を買収したことを公式に発表しました。

【この買収がもたらす実務上のメリット】 これまでライセンシー(実施者)は、HEVCや最新のVVC(H.266)技術を製品に導入する際、Access Advance(HEVC Advance)とVia LAの両方と個別にライセンス交渉を行い、それぞれにロイヤルティを支払う必要(市場の断片化)がありました。 今回の買収・統合により、窓口が一本化され、ライセンス交渉の取引コストが劇的に削減されることが期待されています。

4. まとめ:知財実務・ライセンス戦略への示唆

今回の一連の出来事は、今後のパテントプール運営や標準必須特許(SEP)のライセンス実務において、非常に重要な教訓を残しました。

  • 脱退制限リスクの明確化 プール規約における過度なペナルティ条項は、将来的に裁判で「無効(公序良俗違反や罰則規定)」と判断されるリスクが高まりました。
  • 市場の健全な統合 泥沼の訴訟は、結果として「パテントプールの統合」という、実施者にとってもメリットのある業界再編へと繋がりました。

ビデオコーデックライセンスの一本化が進む中、今後のAccess Advanceの新プランやロイヤルティ料率の動向に、引き続き注目が集まります。

参照情報リスト

本記事で取り上げた判決や買収に関する一次情報は、以下の公式ウェブサイトや裁判所データベースからご確認いただけます。

  • 買収に関する公式声明や、統合されたHEVC/VVCプールのライセンス条件が随時アップデートされています。
  • パテントプール事業の移管や今後のサポートに関するアナウンスが掲載されています。
  • Samsung v. MPEG-LA (Via LA) のサマリージャッジメント(2023年12月)および控訴審判決(2025年10月)の事件番号・判決文詳細を検索・閲覧できます。

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