電気自動車(EV)やコネクテッドカーは、「走るスマートフォン」とも呼ばれます。地図のリアルタイム更新、運転支援、エンターテインメント、OTA(ソフトウェアの無線アップデート)やeSIMなど、4Gや5Gの通信技術が欠かせません。
ここで、自動車業界に、新しい知財リスクが生じています。それが、通信の標準必須特許(SEP)を巡る紛争です。「なぜ、畑違いの自動車メーカーが、通信特許で訴えられるのか」「通信モジュールのベンダ(サプライヤー)が、責任を負うべきではないか」。この記事では、これらの疑問に、世界の判断の現状と、サプライチェーンでの契約の実務から、答えます。
本記事は、一般的な情報提供で、法的助言ではありません。SEPを巡る裁判、制度、料金は、国や時期によって異なり、動きの速い分野です。具体的な案件は、専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- 自動車メーカーが、通信SEPの紛争の、当事者になりやすい理由
- ライセンスを受ける主体(LTAとAFA)の、世界の判断の現状(確定していません)
- サプライヤーの立場(Have-made権、不提訴合意、権利消尽)
- サプライチェーンでの費用の分担と、特許補償条項の選択肢
- 2026年の最新動向(Nokia v. Geely、Avanciの中国メーカーとの契約、欧州SEP規則案の撤回)
用語集(先にここだけ読んでもOK)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| SEP | 標準規格を実施するために、避けられない特許 |
| OEM | 完成車メーカー(Original Equipment Manufacturer) |
| Tier1(一次サプライヤー) | 完成車メーカーに、直接、部品やモジュールを納入するサプライヤー |
| LTA(License to All) | 権利者は、取引段階にかかわらず、希望するすべての者に、ライセンスしなければならないという考え方(経済産業省の整理) |
| AFA(Access for All) | 権利者が、ライセンスの相手の段階(通常は完成品)を選べるとする立場。サプライヤーは、完成品へのライセンスなどを通じて、規格に、アクセスできるとされる |
| Have-made権 | ライセンシーが、第三者に、自己のために、製造させる権利 |
| 不提訴合意 | 一定の者に対して、特許権を行使しないという合意 |
| 権利消尽 | 許諾を受けた者が、適法に販売した製品には、特許権の効力が及ばないという考え方 |
| AASI(反・反訴訟差止命令) | ASI(外国での訴訟を、禁じる命令)を、求めることを、禁じる命令 |
1. 要点
- 自動車は、通信の機能を、実装するようになり、通信SEPのライセンス交渉の、新しい相手になりました。
- 権利者は、完成車メーカーとの契約を、重視する傾向があります。理由として、取引の相手が、限られ、販売台数が、明確であること、権利消尽の考え方、算定基礎の大きさなどが、挙げられます。
- 一方、サプライヤー側は、ライセンスを受ける権利(LTA)を、主張しています。世界的な結論は、出ていません。
- サプライヤーの保護は、完成車メーカーのライセンスの範囲(Have-made権、不提訴合意)に、左右されます。
- 費用は、実務では、除外、限定補償、按分、上限、費用分担などを、組み合わせて、契約で決めます。
2. なぜ「走るスマホ」が通信特許の対象になるのか
かつての自動車は、機械部品を組み合わせた、完結型の製品でした。IoTの普及で、車両に、世界共通の通信規格(4G、5G)を取り込む必要が生じました。
通信規格には、Qualcomm、Nokia、Ericssonなどの通信技術企業が、長年かけて開発した、膨大な特許が含まれています。これらのうち、規格を利用する上で、避けられない特許が、SEPです。通信業界では、特許のライセンスが、重要な事業の一つで、自動車は、次の、大きなライセンスの、対象分野になっています。
3. なぜモジュールベンダではなく、完成車メーカーが訴えられるのか
3-1. 権利者側とサプライヤー側の主張
| 権利者側(AFA)の主張の例 | サプライヤー側(LTA)の主張の例 |
|---|---|
| ライセンスの相手を、完成品の段階に、そろえることで、販売台数や価格が、明確で、管理の負担が、少ない | サプライヤー自身が、ライセンスを受けられることが、公平。完成品だけのライセンスは、「ライセンスなしの、アクセス」にすぎない(Continentalの意見書) |
| 一つの特許を、サプライチェーンの複数の段階に、重ねて、ライセンスすることは、権利消尽の考え方と、なじまない(Nokiaの意見書) | 差止めによる供給の途絶を、避けたい。完成車メーカーは、通信のライセンス交渉の専門性が、限られる場合がある |
| 完成品へのライセンスと、Have-made権で、サプライヤーも、保護される | Have-made権は、サプライヤー自身の、他の顧客への供給までを、カバーするとは、限らない |
| 完成品の価格を、算定基礎にすることで、技術の価値が、反映される | 部品の価格(SSPPU)を、基礎にすれば、部品の価値に、見合った対価になる |
3-2. 権利者が完成車メーカーを狙う、実務上の理由
- 完成車メーカーは、数が限られ、世界のメーカーと、交渉・管理しやすい。
- 通信に関する製品の価値は、完成車の価格に、反映されると、主張しやすい(算定基礎の大きさ)。
- 完成車メーカーへの差止めは、事業への影響が、大きく、交渉のレバレッジになる(Nokia v. Daimlerでの、ドイツの差止め)。
なお、サプライヤー側からは、「契約したくても、権利者やプールから、契約を拒否されている」との主張がありますが、権利者側は、完成品へのライセンスで、サプライヤーも、保護されると、説明しています。どちらの主張が正しいかは、個別の契約の文言と、国・裁判所の判断によります。
4. LTAとAFAの現状:世界的な結論は、出ていません
| 地域 | 確認できる動き |
|---|---|
| 日本 | 経済産業省は、令和2年(2020年)4月21日の考え方で、LTAの考え方を示した(法的拘束力はない)。2022年の誠実交渉指針は、交渉の手順(4つのステップ)に関する指針で、LTAとAFAの、どちらかを、定めるものでは、ない |
| 米国 | 第5巡回区控訴裁(Continental v. Avanci、2022年2月28日)は、部品メーカーの憲法上の原告適格がないとして、訴えを退けた。本案には、立ち入っていない。一審のテキサス北部地区の判断などで、SEP権利者が、ライセンスの相手を選べるとする見方が、示されたと、解説されている。第9巡回区控訴裁(FTC v. Qualcomm、2020年)は、独占禁止法上の判断で、権利者が、ライセンスの相手を選べるとする見方に、近いと評される |
| ドイツ | 2020年のNokia v. Daimler(マンハイム地方裁判所)などで、完成車メーカーへの差止めが、認められた。デュッセルドルフ地方裁判所は、サプライヤーへのライセンスの問題を、EU司法裁判所に付託したが、2021年6月の和解で、取り下げられ、判断は、示されていない |
| 英国 | 2025年3月の控訴院(多数意見)は、プールの管理者であるAvanciに、FRANDの義務が、及ばないとした。**2026年7月の最高裁(Tesla v. InterDigital・Avanci)**は、プールのライセンスについても、英国の裁判所に、FRAND条件を判断する管轄があると判断した(FRAND条件そのものは、今後の審理) |
つまり、「世界の司法判断が、AFAを、全面的に追認した」とは、言えません。完成車メーカーを相手とするライセンスの実務が、広がっている一方で、LTAとAFAの議論は、決着していません。
5. サプライヤーの保護:Have-made権、不提訴合意、権利消尽
5-1. 完成車メーカーが、ライセンスを受けた場合
完成車メーカーが、権利者やプールと、ライセンスを締結したとき、部品を供給するサプライヤーは、どう扱われるのでしょうか。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| Have-made権・不提訴合意 | 完成車メーカーのライセンスに、これらが含まれる場合、完成車メーカーのための供給について、サプライヤーが、保護されると、権利者側は、説明している |
| 保護の範囲 | 保護は、完成車メーカーのための供給に、限られる場合があり、サプライヤー自身の、他の顧客への供給や、自らライセンスを得ることとは、異なると、サプライヤー側は、主張している |
| 個別の契約 | どこまで保護されるかは、個別のライセンス契約の文言による |
「完成車メーカーが契約すれば、モジュールベンダも、自動的に、免責される」とは、言い切れません。
5-2. 権利消尽と二重取りの回避は、別の考え方
| 項目 | 権利消尽 | 二重取りの回避 |
|---|---|---|
| 内容 | 許諾を受けた者が、適法に販売した製品には、特許権の効力が及ばない | 同じ特許について、サプライチェーンの複数の段階から、重ねて対価を得ることを避ける考え方 |
| 場面 | 権利者が、上流(モジュールベンダなど)に、ライセンスを付与した場合 | 権利者が、下流(完成車メーカー)から、すでに対価を得ている場合 |
6. 費用は、誰が負担するのか
6-1. Avanciの料金(参考)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 5Gの車両プログラム | 2023年の報道で、1台あたり32ドル(早期の契約は、29ドル) |
| 4Gの車両プログラム | 2023年の報道で、1台あたり最大20ドル |
| 注意 | 現在の料金は、変わっている可能性がある。公式サイトで、確認が必要 |
6-2. 特許補償条項の問題
一般的な部品調達契約には、「サプライヤーが納品した部品が、他社の特許を侵害していた場合、サプライヤーが、防御し、損害を補償する」という、特許補償条項が、あります。
通信SEPに、この条項を、そのまま適用すると、次の問題が生じます。
- SEPの対価が、車両単位の定額(例:32ドル)で、部品の納入価格や利益を、上回る場合がある。
- 通常の補償の、**代替措置(修正・交換で、非侵害にする)**が、規格に準拠したままでは、成立しにくい。
そのため、実務では、SEPを、どう扱うかを、契約で、定めることが、一般的です(第三者の特許の補償と、SEPを、同じ条項で、扱わない)。
6-3. SEPの扱いの選択肢
| 段階 | 内容 | サプライヤーのリスク | 完成車メーカーの保護 |
|---|---|---|---|
| ① 完全に引き受ける | SEPも含めて、保証・補償する | 非常に大きい | 最も高い |
| ② 限定して補償する | FRAND条件・合意したライセンスの対価に限定。按分と上限を設ける | 大きいが、コントロールできる | 中程度 |
| ③ 費用を分担する | ライセンス費用の、一部を、納入価格に反映 | 限定的 | 中程度 |
| ④ 除外し、協力する | SEPは、除外。ただし、通知、情報提供、技術的な協力の義務を負う | 小さい | 低〜中 |
| ⑤ 完全に除外する | SEPは、保証・補償の対象外。ライセンスは、完成車メーカーの責任 | 最も小さい | 低い |
一つの段階だけに頼らず、組み合わせて、取引の力関係と、製品の性質に応じて、決めます。
6-4. 按分と上限の考え方(架空の例)
以下は、仕組みを説明するための、架空の数字です。
| 項目 | 仮定 |
|---|---|
| 車両1台あたりのSEPの対価 | 32ドル |
| 通信モジュールの納入価格(仮) | 80ドル |
| 完成車メーカーとサプライヤーの合意(仮) | サプライヤーは、モジュールの納入額の5%(4ドル)を上限に、1台あたりの対価の一部を、負担する |
| 結果 | サプライヤーの負担は、1台あたり、最大4ドル。残りの28ドル以上は、完成車メーカーが、自ら負担 |
この例は、あくまで、仕組みの説明です。実際の分担は、納入価格、利益、リスク、交渉力によって、異なります。
6-5. 納入価格への反映
サプライヤーに、SEPの費用の一部を、負担させる場合、納入価格に、技術の価値を、反映させる交渉が、あります。価格に、反映するか、補償で、負担するかを、整理して、二重の負担を避けることが、大切です。
7. 2026年の最新動向
7-1. 欧州SEP規則案の撤回(2025年)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2023年4月 | 欧州委員会が、規則案を提案。SEPの登録所、拘束力のない必須性チェック、FRAND条件の調停などを含む |
| 2025年2月11日 | 撤回の方針が示された(理由:合意の見通しがない) |
| 2025年10月6日 | 官報で、撤回が公示された |
| 2025年11月25日 | 欧州議会が、欧州委員会を、EU司法裁判所に提訴する決議を、334対294で可決 |
規則案は、LTAやSSPPUを、強制するものでは、ありませんでした。撤回によって、市場や裁判での、個別の解決が、続きます。なお、2026年1月19日に施行されたRegulation (EU) 2025/2645は、危機管理のための強制ライセンスの規則で、別の制度です。
7-2. Nokia v. Geely(2025〜2026年)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年7月18日 | Nokiaが、Geelyを、UPC(マンハイム、ミュンヘン)と、ミュンヘン地方裁判所で、4Gと5Gの特許(4件)に基づき、提訴 |
| 2025年7月23日 | Geelyが、杭州中級人民法院に、グローバルFRAND条件の決定を、求める訴えを提起 |
| 2026年4月8日 | Geelyが、杭州で、グローバルな暫定ライセンスを、申し立て |
| 2026年4月20日 | UPCマンハイム地方部が、ex parteで、Geelyに、暫定ライセンスを、求めないことなどを命じるAASIを発令。ミュンヘン地裁も、ほぼ同時に、同様の命令(報道では、最大約5,000万ユーロ規模の過料) |
| 2026年5月21日 | ミュンヘン地裁で、Nokiaが、訴訟を取り下げ。グローバルな和解と、報じられた |
和解の内容は、公表されていません。専門メディアは、Avanciのライセンスを取ったと、推定しています(公式の確認は、ありません)。Avanciは、中国のメーカーとの契約が、2026年3月に、7社・10件、同年9月に、20件(中国の輸出上位10社のうち7社)と、報じられています。
7-3. 他の動き
| 動き | 内容 |
|---|---|
| IP Bridge v. Geely(ブラジル、2026年) | 差止めが出たと、報じられた |
| Sun Patent Trust v. Geelyのブランド(UPCハンブルク、2025年12月) | Lynk & Co、Zeekr、Smart、Lotusを提訴 |
| BYDとAvanci(2025年9月) | 最初の、公表された中国のライセンシー。IP Bridgeの提訴から、短期間で、和解したと、報じられた |
| Tesla v. InterDigital・Avanci(英国、2026年7月) | プールのライセンスについて、英国の裁判所に、FRAND条件を判断する管轄があると判断(FRAND条件そのものは、今後の審理) |
| Pantech v. Google(東京地裁、2025年6月) | 日本で初めて、SEPに基づく差止めを、認めた。スマートフォンの事案で、決め手は、裁判所が主導した和解手続での対応だった。製品は、すでに、販売終了。大阪地裁(同年7月)は、並行事件で、異なる判断。2025年12月に、グローバルな和解が成立。自動車への影響は、事実関係によって、変わる |
8. 実務のチェックリスト
8-1. 完成車メーカー
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| ライセンスの計画 | 4G、5G、Wi-Fiなどの通信規格について、自社が、どの権利者・プールと、ライセンスを結ぶかを、早めに決めたか |
| ライセンスの範囲 | Have-made権、不提訴合意が、サプライヤーを、どこまで、カバーするかを、確認したか |
| 費用の予算化 | 車両単位の対価を、原価に、組み込んだか |
| 調達契約 | 特許補償条項の、SEPの扱い(除外、限定、按分、上限)を、見直したか |
| 紛争への備え | 差止めの国(ドイツ、UPC、ブラジルなど)での、事業継続の計画があるか |
8-2. サプライヤー(モジュールベンダ、Tier1)
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 補償条項 | SEPが、補償の対象に含まれていないか。含まれる場合の、上限と按分を、定めたか |
| 保護の範囲 | 完成車メーカーのライセンスが、自社の供給を、カバーするかを、確認したか |
| 情報提供 | ライセンスの交渉への協力(技術資料の提供など)の範囲を、明確にしたか |
| 価格 | 納入価格に、SEPの費用を、反映するかを、整理したか |
| 他の顧客 | 他の顧客への供給の、ライセンスの扱いを、確認したか |
9. ケーススタディ(架空の例)
以下は、イメージをつかむための架空の例です。実在の企業・案件ではありません。
完成車メーカーA社は、Tier1のB社から、通信モジュールを、調達しています。A社の基本取引契約には、「B社は、納品した部品が、第三者の特許を侵害した場合、A社を防御し、補償する」という、特許補償条項が、ありました。
- A社は、通信SEPの権利者C社から、ライセンスの申込みを受けました。A社は、C社と、グローバルライセンスを、結ぶ方針としました。
- B社は、補償条項について、「SEPは、補償の対象外」とし、代わりに、ライセンスの交渉への協力と、納入額の5%を上限とする、費用の分担を、提案しました。
- A社は、C社のライセンスに、Have-made権が含まれることを、確認し、B社の供給が、A社のためのものである範囲で、保護されることを、確認しました。
- 両社は、SEPの扱い(除外、協力、按分、上限)を、調達契約の、別紙として、整理しました。
ポイントは、SEPを、通常の補償と分けて扱うこと、ライセンスの範囲を、確認すること、按分と上限で、サプライヤーの負担を、コントロールすることです。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ自動車メーカーが、通信特許で訴えられるのですか?
自動車が、4Gや5Gの通信機能を実装するようになり、SEPのライセンスの、新しい対象分野になったためです。権利者は、完成車メーカーとの契約を、重視する傾向があります。
Q2. 通信モジュールのベンダは、なぜライセンスを受けないのですか?
権利者側は、完成品へのライセンスで、サプライヤーも保護されると、説明しています。サプライヤー側は、自らライセンスを受ける権利(LTA)を、主張しています。世界的な結論は、出ていません。
Q3. 世界の裁判所は、AFAを認めたのですか?
「認めた」とは、言えません。米国のContinental v. Avanci(2022年)は、原告適格がないとして退けられ、本案の判断は、ありません。ドイツのNokia v. Daimlerは、和解で終わり、EU司法裁判所の判断は、示されていません。英国最高裁(2026年)は、プールのライセンスについて、管轄を、認めました。
Q4. 完成車メーカーが、ライセンスを受ければ、サプライヤーは、免責されますか?
ライセンスの範囲によります。Have-made権や不提訴合意が、含まれる場合、完成車メーカーのための供給について、保護される場合があります。自動的に、免責される、とは、限りません。
Q5. 特許補償条項は、SEPを、どう扱うべきですか?
SEPは、通常の補償と、分けて、扱うのが、実務です。除外、限定補償、按分、上限、費用分担などの選択肢を、組み合わせます。
Q6. Avanciに入れば、紛争は、避けられますか?
Avanciに参加する権利者の特許は、カバーされますが、参加していない権利者の特許や、プールの条件を巡る紛争は、あり得ます。また、Avanciに参加するライセンサーが、未契約のメーカーを、提訴する例も、あります(Nokia v. Geelyなど)。
Q7. 欧州のSEP規則案が撤回されたことの影響は?
規則案は、LTAやSSPPUを強制するものでは、なく、登録所、必須性チェック、調停を、定めるものでした。撤回後は、市場や裁判での、個別の解決が、続きます。
Q8. 日本の完成車メーカーは、何をすべきですか?
ライセンスの計画を、早めに立て、費用を原価に組み込み、調達契約のSEPの扱いを見直し、差止めのリスクのある国での、事業継続の計画を、整えることです。
11. まとめ
- 自動車は、通信SEPの、新しいライセンスの対象分野になりました。
- 権利者は、完成車メーカーとの契約を、重視する傾向があります。ただし、LTAとAFAの議論は、世界的に、確定していません。
- サプライヤーの保護は、完成車メーカーのライセンスの範囲(Have-made権、不提訴合意)に、左右されます。
- 費用は、契約で、決めます。特許補償条項は、SEPを、通常の補償と、分けて、扱い、除外、限定補償、按分、上限、費用分担などを、組み合わせます。
- 2026年は、Nokia v. Geely(AASIと和解)、Avanciの中国メーカーとの契約の拡大、欧州SEP規則案の撤回など、動きが続いています。
今後のウォッチポイント
- Tesla v. InterDigital・Avanciの、プールのFRAND条件の審理
- UPCのAASI・暫定ライセンスに関する、判断の積み重ね
- Avanciの、中国メーカーとのライセンスの拡大と、Wi-Fiなどへの展開
- Sun Patent Trust、IP Bridgeなど、Avanciのライセンサーによる、権利行使
- 日本のSEP調停の運用と、実績
- サプライヤーのライセンスの権利に関する、新たな判断
参考資料
LTA・AFAと各国の判断
- 経済産業省「マルチコンポーネント製品に係る標準必須特許のフェアバリューの算定に関する考え方」(令和2年4月21日):https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/008_s03_00.pdf
- 経済産業省「標準必須特許のライセンスに関する誠実交渉指針」(2022年3月):https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/sep_license/good-faith-negotiation-guidelines-for-SEPlicenses-ja.pdf
- Continental v. Avanci(第5巡回区、2022年)の解説:https://www.lit-antitrust.aoshearman.com/Auto-Parts-Supplier-Lacks-Standing-To-Bring-Antitrust-Claims-Against-Standard-Essential
- Oxford Business Law Blog「SEPs licensing across the supply chain: an antitrust perspective」:https://blogs.law.ox.ac.uk/business-law-blog/blog/2021/05/sep-licensing-across-supply-chain-antitrust-perspective
- Nokia(インド電気通信規制庁への意見書、2024年):https://trai.gov.in/sites/default/files/Nokia_31012024.pdf
- Continental(英国政府への意見書):https://assets.publishing.service.gov.uk/media/625009018fa8f54a92278985/Continental_Redacted.pdf
- Tesla v. InterDigital・Avanci(英国最高裁、2026年)の解説:https://www.juve-patent.com/cases/uk-supreme-court-hands-tesla-landmark-win-in-avanci-5g-pool-licence-dispute/
Nokia v. Geely
- JUVE Patent「Nokia withdraws action against Geely in connected cars dispute」(2026年5月21日):https://www.juve-patent.com/cases/nokia-withdraws-action-against-geely-in-connected-cars-dispute/
- JUVE Patent「Nokia wins anti-suit injunction against Geely’s interim-licence application」(2026年4月24日):https://www.juve-patent.com/cases/nokia-wins-anti-suit-injunction-against-geelys-interim-licence-application/
- UPCマンハイム地方部の命令(2026年4月20日、UPC_CFI_1291/2026):https://www.veron.com/wp-content/uploads/pve-upc/fichiers/2026-04-20_LD_Mannheim_UPC_CFI_1291-2026_en-GB.pdf
- ip fray「BREAKING: Nokia and Geely settled SEP dispute」:https://ipfray.com/breaking-nokia-and-geely-settled-sep-dispute-unknown-if-license-partly-wi-fi-or-wholly-wi-fi-plus-cellular-bilateral/
- ip fray「Geely takes Avanci license」(推定の根拠):https://ipfray.com/?p=11025
Avanci・中国メーカー
- Avanci「Avanci Vehicle Welcomes Seven Chinese Automakers」(2026年3月30日):https://www.avanci.com/2026/03/30/avanci-vehicle-welcomes-seven-chinese-automakers/
- ip fray「Simultaneous Great Wall Motor settlements suggest Avanci license」(20件、輸出上位10社のうち7社):https://ipfray.com/?p=13419
- China Daily「Avanci streamlining 5G patent pathways」(2023年の料金):https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202312/11/WS65766194a31036711cce4a40.html
欧州SEP規則案
- Sterne Kessler「European Commission suddenly withdraws proposed SEP regulation」:https://www.sternekessler.com/news-insights/client-alerts/european-commission-suddenly-withdraws-proposed-sep-regulation/
- 欧州議会「Standard essential patents (SEP) regulation」(官報での撤回の公示を含む):https://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-a-europe-fit-for-the-digital-age/file-patent-licensing-package-1
- Linklaters「EU SEP Regulation battle escalates」:https://techinsights.linklaters.com/post/102lw3e/eu-sep-regulation-battle-escalates-parliament-brings-commission-before-eu-court
- Regulation (EU) 2025/2645(危機管理のための強制ライセンス):https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/2645/oj/eng
日本
- Pantech v. Google(東京地裁、2025年)の解説(AIPPI):https://www.aippi.org/news/japans-first-sep-injunction-pantech-v-google-and-the-high-bar-for-establishing-unwillingness/
- 東京地方裁判所「標準必須特許に基づく特許権侵害訴訟の審理要領」(令和8年1月):https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/23894
本記事について
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