「一つの窓口で、必要なライセンスが、すべて完了する」。この理想を掲げて作られるのが、特許プールです。しかし、現実には、すべてのプールが、成功するわけではありません。市場の標準的な窓口になるプールがある一方で、有力な権利者が集まらなかったり、同じ規格に複数のプールが並び立って、かえって混乱を招いたりする例もあります。
この記事では、プールの成否を分ける条件を、競争法の考え方と、ビデオコーデック、自動車、Wi-Fiの実例から整理します。あわせて、プールに対抗する、実施者側の集まりである、ライセンス交渉グループ(LNG)の動きも、解説します。
本記事は、一般的な情報提供で、法的助言ではありません。ライセンスの料金や、各国の制度は、変更されることがあります。具体的な案件は、専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- 特許プールの目的と、限界
- 成功するプールの条件と、失敗・停滞するプールの特徴
- ビデオコーデック(HEVC/VVC)の、乱立から再編への流れ
- 自動車(Avanci)の中国メーカーへの広がりと、Wi-Fiへの展開
- LNGを巡る、欧米の動き
- 権利者、実施者、プールの運営者それぞれの、実務の視点
用語集(先にここだけ読んでもOK)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 特許プール | 複数の特許権者が、特許を、まとめて、ライセンスする仕組み |
| ワンストップ | 一つの窓口で、必要なライセンスが、完了すること |
| 補完(complement)/代替(substitute) | 補完は、一緒に使わないと、規格を実施できない特許どうしの関係。代替は、互いに、競合する技術の関係 |
| ロイヤリティ・スタッキング | 多数の権利者のロイヤリティが、積み重なって、全体の負担が大きくなること |
| 二重取り(double dipping) | 同じ特許について、複数のプールや、個別のライセンスで、重ねて、対価を請求されること |
| 断片化 | 同じ規格に対して、ライセンスの窓口が、複数に、分かれること |
| LNG(ライセンス交渉グループ) | 実施者側が、共同で、ライセンスの交渉を行う仕組み |
| コンフォートレター | 競争当局が、特定の取り組みについて、一定の条件の下で、問題としない旨を、非公式に伝える文書 |
1. 特許プールは、何のためにあるのか
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 取引費用の削減 | 実施者は、権利者ごとに、個別に交渉する手間を、省ける。権利者も、多数の実施者との契約の手間が、減る |
| 法的な安定 | 一つのライセンスで、プールに含まれる必須特許を、カバーできる(ライセンス範囲の、予見可能性) |
| ロイヤリティ・スタッキングの緩和 | 窓口と料金が、一本化されることで、全体の負担が、見通しやすくなる |
| 規格の普及 | 実施者が、安心して、規格を採用できる環境を整える |
ただし、プールは、万能ではありません。プールに入っていない権利者の特許や、プールの条件自体を巡る紛争は、起こり得ます。
2. 成功するプールの条件
2-1. 実務上の三つの条件
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 主要な権利者の参加(網羅性) | 規格の実施に欠かせない、主要な権利者が、参加している。参加していない大手がいると、実施者は、プールに払った後も、個別の交渉が必要になり、敬遠される |
| 簡潔で透明な料金体系 | 「1台あたり、一定額」のような、計算しやすい料金。割引の条件が、明確 |
| 中立的な運営 | 特定の企業に、偏らない、独立した管理会社が、窓口となり、FRAND条件を、守る |
2-2. 競争法の観点からの条件
米国司法省は、1997年に、MPEG-2のプールについて、ビジネスレビューレターで、問題としない旨を示しました。その際に、重視された点は、現在でも、プールの設計の基本として、参照されています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 補完関係の特許に限る | プールには、規格の実施に必要な(必須の)特許だけを含め、互いに、代替になる特許を、含めない |
| 独立した専門家による評価 | 特許が、本当に必須かを、独立した専門家が、評価する。必須でない特許は、プールから外す仕組みを設ける |
| 非独占・非差別的なライセンス | プールの特許は、非独占で、すべての希望者に、同じ条件で、ライセンスされる。権利者は、プールとは別に、個別に、ライセンスすることもできる |
| 代替技術の開発の自由 | ライセンシーが、プールの技術と競合する技術を、開発することを、妨げない |
「競合する代替技術まで、一つにまとめる」と、価格の共同決定(カルテル)と見なされるおそれがあります。欧州や日本の競争当局の指針も、同様の考え方で、特許プールを、検討しています。
3. 失敗・停滞するプールの特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 有力な権利者の不在 | 最大手が、不参加の場合、実施者は、二度手間を強いられる |
| プールの乱立(断片化) | 同じ規格に、複数のプールがあり、実施者は、どこに、いくら払えば安全か、分からない。二重取りへの不信感が生じる |
| 料金の不透明さ | 複雑な計算式、不透明な割引、交渉ごとの変動 |
| 法的リスク | 代替技術の抱き合わせによる、カルテルの疑い |
| 権利者の脱退 | 主要な権利者が、更新時などに、脱退し、網羅性が下がる |
3-1. 典型例:HEVCのプール乱立(2014〜2017年)
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2015年初め | HEVCのプールは、MPEG LAの一つ。1台あたり0.20ドル(最初の10万台は、無料)、初年度の上限は、2,500万ドルと、報じられた |
| 2015年3月 | 別のプール、HEVC Advanceが、発表された |
| 2015年7月 | HEVC Advanceの最初のライセンスの条件が、公表された。MPEG LAの条件を、大きく上回ると、報じられ、実施者から、強い反発が、起きた |
| 2015年9月1日 | Amazon、Google、Netflixなどが、ロイヤリティフリーのコーデックを目指す、Alliance for Open Media(AOMedia)を発足(HEVC Advanceの最初の条件の公表の、約6週間後) |
| 2015年12月 | HEVC Advanceが、条件を、見直し(1台あたりの料金の引き下げなど) |
| 2017年3月 | 3つ目のプール、Velos Media(Ericsson、Panasonic、Qualcomm、Sharp、Sony)が、発足 |
この結果、HEVCのライセンスは、複数のプールと、個別のライセンスに、分かれました。業界団体のCableLabsは、早い段階で、プールの統合を、促していました。プールの乱立への反発が、AV1のような、ロイヤリティフリーを掲げる代替技術の開発を、後押しした、という見方があります。
4. 成功と失敗の比較
| 判断軸 | 成功する特許プール | 失敗・停滞する特許プール |
|---|---|---|
| ライセンス窓口 | 一本化された、ワンストップ | 同一規格内で、複数のプールが乱立 |
| 権利者の網羅率 | 主要な権利者を、広く、カバー | 有力な権利者が、不参加、または脱退 |
| ロイヤリティ体系 | 透明で、予測しやすい | 複雑で、不透明な割引や、変動 |
| 必須性の確認 | 独立した専門家が、評価。非必須の特許は、外す | 必須性の確認が、不十分 |
| 法的リスク | 競争法を、守った、中立的な運営 | 代替技術の抱き合わせ、不透明な運営 |
| 実施者の評価 | 更新率が高い。ライセンシーが、増える | 更新率が低い。脱退や、紛争が多い |
プールの評価指標(実務の目安)
| 指標 | 見方 |
|---|---|
| カバレッジ | 規格の必須特許の、どの程度が、プールに含まれているか(主要な権利者の参加状況) |
| ライセンシー数・更新率 | 新規のライセンシーの増加と、更新の割合 |
| 紛争の解決状況 | 権利者が起こした訴訟が、プールのライセンスで、解決しているか |
| 料金の透明性 | 料金表の公開、割引の条件、上限(キャップ)の有無 |
| 重複ライセンスの有無 | 同じ特許が、複数のプールで、ライセンスされていないか |
5. ビデオコーデック:乱立から再編へ
5-1. 再編の経緯
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年 | MPEG LAと、Via Licensingが、統合し、Via Licensing Alliance(Via LA)が、発足 |
| 2025年12月15日 | Access Advanceが、Via LAのHEVC/VVCプールの管理会社を、買収。買収された側は、VCL Advance(Video Codec Licensing)として、独立して運営される |
| 2026年1月 | Access Advanceが、2025年第4四半期に、HEVC Advanceで、29の新規ライセンシー(約8%の増加)、更新の権利があったライセンシー(120社超)の100%が、更新したと発表。HEVC Advanceのライセンシーは、400社超と報じられた。VVC Advanceは、約40%増。複数の権利者による訴訟が、ライセンス契約で、解決したとも発表した |
| 2026年1月 | HEVC Advanceの料金・上限の25%引き上げの適用が、2026年6月30日までに、契約した新規のライセンシーには、猶予され、現行の料金が、2030年まで、確保される、と発表 |
Access Advanceによれば、HEVC Advanceは、HEVCに必須の特許を、2万9,000件超、VVC Advanceは、VVCに必須の特許を、4,500件超、ライセンスしています。ストリーミング向けの、Video Distribution Patent Pool(VDP)も運営し、HEVC、VVC、VP9、AV1を、対象としています。
5-2. 「大統合」の実際
- Access Advanceは、Via LAのHEVC/VVCプールの管理会社を、買収しましたが、VCL Advanceは、独立したプログラムとして、運営されています。HEVC Advanceと、VCL Advanceの、統合の作業は、継続中です。
- VCL Advanceの公表料金の例:最初の10万台は無料(一つの法人に限る)、10万台を超える分は、1台あたり0.30ドル(先進国を中心とする地域)または0.20ドル(その他)、年間の上限は、3,000万ドル。シンプルな料金体系の例ですが、料金は、変更される可能性があります。
- 市場は、「一本化による利便性」の方向へ、動いていますが、完全に、一つの窓口になったわけではありません。
5-3. AV1と、ロイヤリティフリーの限界
AV1は、ロイヤリティフリーを掲げて、HEVCの乱立への対抗として、生まれました。しかし、2026年時点でも、AV1の特許を巡る争いが、続いています(DolbyのSnapに対する訴訟、InterDigitalのAmazonに対する訴訟など)。また、Access AdvanceとSisvelは、AV1のプールを、作っています(AOMediaは、反対)。「ロイヤリティフリー」と呼ばれても、第三者の特許の主張から、自動的に、守られるわけでは、ありません。
6. 自動車:Avanci
6-1. 現状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 4Gと5Gの車両向けプログラム。車両単位で、ライセンス。4Gは、約70、5Gは、約90のライセンサーの特許を、カバー |
| 規模 | 275百万台超の、コネクテッドカーが、ライセンスの対象。150超の自動車ブランドが、参加(Avanciの発表) |
| 料金の例 | 2023年の報道では、4Gが、1台あたり最大20ドル、5Gが、32ドル(早期の契約は、29ドル)。現在は、変わっている可能性 |
6-2. 中国メーカーへの広がり
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年9月 | BYDが、4Gのライセンスを締結(最初の、公表された中国のライセンシー) |
| 2026年3月30日 | 中国に本社を置く7社と、10件の契約を発表 |
| 2026年6月 | 11社、17件(ip fray) |
| 2026年9月 | 20件。中国の輸出上位10社のうち、7社(Avanciの発表に基づく報道) |
輸出を拡大したい、中国の自動車メーカーが、グローバルなライセンスを、一括で得られるAvanciを、受け入れている、との分析があります。
6-3. プールがあっても、紛争は、なくならない
- Avanciに参加するライセンサー(Nokia、Sun Patent Trust、IP Bridgeなど)が、まだ、ライセンスを受けていない自動車メーカー(Geelyなど)に対し、各国で、訴訟を起こした例があります。
- Teslaは、英国で、Avanciのプールのライセンスの条件について、争っています。2026年7月の英国最高裁は、プールのライセンスについても、英国の裁判所に、FRAND条件を判断する管轄があるとしました(FRAND条件そのものは、今後の審理)。
7. Wi-Fi:Avanci WiFiとSisvel
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Avanci Wi-Fi | 2026年3月に、Wi-Fi 6とWi-Fi 7の標準必須特許の、新しいライセンスのプラットフォームを、発表。最初のプログラムは、車両向けの、Avanci Wi-Fi 6 Vehicle。最初のライセンシーは、メルセデス・ベンツ |
| 参加ライセンサー | 発表時で、10社、後に、11社と表示(Atlas Global、BlackBerry、Canon、KPN、Malikie、NEC、Oppo、Sharpなど)。さらに、増える見込みと、説明されている |
| 料金 | 車両あたりで、非公開(ライセンスを検討する企業に、秘密保持の下で、提示)。Avanciは、4G・5Gより、かなり低いと、説明。初の販売の前、または、プログラムの開始から6か月以内に、契約した場合は、早期の割引が適用され得る |
| 他の分野 | Avanciは、動画のライセンス(Avanci Video)も、2026年2月に、最初のライセンシーと、料金の公表を、行ったと報じられた |
| Sisvel | Wi-Fi 6、セルラーIoT、AV1などのプールを、運営 |
「自動車での成功モデルを、他の分野に広げる」動きは、事実ですが、スマートホーム、PC、家電などへの、広がりは、現時点では、これからです。
8. 新たな対立軸:プールとLNG
8-1. LNGとは
LNGは、自動車メーカーなどの実施者が、共同で、プールや権利者と、交渉する仕組みです。プールが、権利者側の、まとまりであるのに対し、LNGは、実施者側の、まとまりです。
8-2. 対立の構図
| 立場 | 主張 |
|---|---|
| 権利者側(一部の競争当局を含む) | 買い手のカルテルで、不当な値下げ圧力になる |
| 実施者側 | 交渉力の格差の是正。特に、中小企業の負担の軽減 |
8-3. 欧米の動き
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024年6月 | ドイツの連邦カルテル庁が、自動車分野のLNG(ALNG)について、コンフォートレターを、出した |
| 2025年7月9日 | 欧州委員会が、ALNGについて、一定の条件の下で、問題としない旨の、コンフォートレターを、出した |
| 2025年 | 欧州SEP規則案は、撤回された(2025年7月に、正式に撤回。欧州議会は、欧州委員会を、提訴する手続きを進めた) |
| 2025年10月 | 米国司法省の幹部が、欧州の動きに、批判的な発言 |
| 2026年3月 | 司法省が、ALNGの関係企業に、民事調査要求を出したと、報じられた |
| 2026年4月 | 欧州の技術移転ブロック免除規則(TTBER)の最終版が、採択された(5月1日施行)。LNGのセーフハーバーは、含まれなかった |
欧米で、見方が分かれており、評価は、確定していません。
9. 立場別の実務
9-1. 権利者の側から
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| プールの選択 | 参加するプールの、網羅性、料金の透明性、運営の中立性、競争法上の評価を、確認する |
| 個別ライセンスとの関係 | プールへの参加と、個別のライセンスの、両立(独立したライセンス)の可否を、確認する |
| 必須性の確認 | プールが、独立した専門家による必須性の評価を、行っているか |
| 脱退・更新 | プールの更新条件、脱退の手続きを、確認する |
| 紛争への備え | プールに参加しても、未契約の実施者との紛争は、残る。各国の裁判の準備を、検討する |
9-2. 実施者の側から
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| カバレッジの確認 | プールが、規格の主要な権利者を、どの程度、カバーしているか。未参加の権利者に、個別の交渉が必要か |
| 重複ライセンス | 複数のプールや、個別のライセンスで、同じ特許に、重ねて支払っていないか |
| 料金の条件 | 上限(キャップ)、無料の枠、過去の販売分の扱い、早期契約の割引、将来の値上げの条件 |
| 契約の更新・解除 | 更新の条件、プールの構成が変わった場合の扱い |
| 他の選択肢 | 個別のライセンス、LNGの利用、ロイヤリティフリーの代替技術(権利の主張のリスクも、確認) |
| 早期の対応 | 紛争が起きる前に、ライセンスを検討する(自動車分野で、実施者が、早めに契約している傾向があると、報じられている) |
9-3. プールの運営者の側から
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 設計 | 補完関係の特許に限る。独立した専門家の評価。非独占・非差別的 |
| 料金 | 透明で、計算しやすい。上限の設計 |
| 再編への備え | 統合や、買収の際の、既存のライセンシーへの扱い |
| 競争当局への説明 | ビジネスレビューや、事前の相談など |
10. ケーススタディ(架空の例)
以下は、イメージをつかむための架空の例です。実在の企業・案件ではありません。
機器メーカーのA社は、新しい映像規格を、搭載した製品を、発売しようとしています。この規格には、プールが、二つあり、さらに、プールに入っていない大手の権利者が、一社、あります。
- A社は、まず、各プールの、カバレッジ(どの権利者が、参加しているか)と、重複している特許の有無を、確認しました。
- 二つのプールを、両方、契約すると、重複した支払いが、生じる可能性があるため、契約の条件(重複分の調整の有無)を、各プールに、確認しました。
- プールに、入っていない大手の権利者とは、個別の交渉を、早めに始めました。
- 上限(キャップ)と、早期契約の割引の条件を、比較し、総額が、事業計画に収まるかを、試算しました。
ポイントは、「カバレッジの確認」「重複の確認」「個別交渉の早期の開始」「総額の試算」です。
11. よくある質問(FAQ)
Q1. 特許プールに入れば、紛争は、避けられますか?
プールは、交渉の手間を、減らしますが、プールに参加しない権利者や、プールの条件を巡って、紛争が起こる場合があります。
Q2. プールが、複数あると、何が問題ですか?
実施者は、どこに、いくら払えば安全か、分からなくなり、二重取りへの不信感が、生じます。HEVCでは、プールの乱立への反発が、代替技術の開発を、後押ししたと、指摘されています。
Q3. Access AdvanceとVia LAは、完全に、統合されたのですか?
2025年12月に、Access Advanceが、Via LAのHEVC/VVCプールの管理会社を、買収しました。VCL Advanceとして、独立して、運営されており、統合の作業は、継続中です。
Q4. Avanci Wi-Fiは、すべてのWi-Fi製品を、対象にしていますか?
2026年3月に始まったのは、車両向けの、Avanci Wi-Fi 6 Vehicleです。他の分野は、これからです。
Q5. LNGは、違法ですか?
一律に違法、または、適法とは、言えません。欧州委員会は、一定の条件の下で、問題としない旨を、示しましたが、米国司法省の幹部は、批判的な見解を示しています。
Q6. 欧州で、SEPに関する新しい規則は、できますか?
欧州SEP規則案は、2025年に、撤回されました。現時点で、EUの規則による制度化は、ありません。
Q7. ロイヤリティフリーのコーデックを、使えば、特許の問題は、避けられますか?
避けられるとは、限りません。AV1についても、特許を主張する権利者がいて、プールも、作られています。
Q8. 実施者が、プールを選ぶときの、一番の確認点は?
カバレッジ(主要な権利者が、参加しているか)、重複ライセンスの有無、料金の透明性と上限、更新・解除の条件です。
12. まとめ
- プールの成否を分けるのは、主要な権利者の参加(網羅性)、透明で簡潔な料金、中立的な運営、そして、競争法に沿った設計(補完関係の必須特許に限る、独立した専門家の評価、非独占・非差別的なライセンス)です。
- 同じ規格に、複数のプールが、乱立(断片化)すると、実施者の不信感と、代替技術の開発を、招きます(HEVCの例)。
- ビデオコーデックでは、2025年12月の、Access AdvanceによるVia LAのHEVC/VVCプールの管理会社の買収で、再編が、進みました。ただし、統合の作業は、継続中で、完全な一本化では、ありません。
- 自動車では、Avanciが、中国のメーカーに、広がっています(2026年9月に、20件)。Wi-Fiへの展開は、2026年3月に、車両向けから、始まりました。
- プールがあっても、未契約の実施者との紛争や、プールの条件を巡る争いは、起こり得ます。
- LNGを巡る欧米の評価は、分かれており、確定していません。欧州SEP規則案は、撤回されました。
今後のウォッチポイント
- HEVC Advanceと、VCL Advanceの、統合の進捗と、料金の変化
- Avanciの、中国メーカーとのライセンスの拡大と、Wi-Fi・動画への展開
- Tesla v. InterDigital・Avanci(英国)の、プールのFRAND条件の審理
- LNGに関する、欧米の競争当局の判断(欧州のTTBERの運用、米国の調査)
- AV1を巡る、特許の主張と、プールの動き
- 6Gの標準化と、プールの設計
参考資料
プールと競争法
- 米国司法省「MPEG-2に関するビジネスレビューレター」(1997年6月26日):https://www.justice.gov/atr/public/busreview/215742.htm
- 同・プレスリリース:https://www.justice.gov/archive/opa/pr/1997/June97/267at.htm
- WilmerHale「Analyzing Patent Pools」(各国の競争当局の考え方の整理):https://www.wilmerhale.com/-/media/files/wilmerhale_shared_content/files/editorial/publication/analyzing-patent_pools.pdf
ビデオコーデック
- Access Advance「Access Advance Extends HEVC Advance Rate Increase Deadline」(2026年1月):https://www.businesswire.com/news/home/20260126799824/en/Access-Advance-Extends-HEVC-Advance-Rate-Increase-Deadline
- Via LA「HEVC/VVC」(VCL Advanceへの移行と、料金):https://www.via-la.com/licensing/hevc
- ip fray「Access Advance reports 100% HEVC patent agreement renewal rate」:https://ipfray.com/?p=7434
- Streaming Learning Center「HEVC’s Journey in 2015」:https://streaminglearningcenter.com/?p=5618
- Streaming Learning Center「AV1 Gets Closer, HEVC Gets More Expensive」(Velos Media):https://streaminglearningcenter.com/blogs/av1-gets-closer-hevc-gets-expensive.html
- StreamTV Insider「CableLabs: HEVC Advance, MPEG-LA patent pools need to merge」:https://www.streamtvinsider.com/cable/cablelabs-hevcadvance-mpeg-la-patent-pools-need-to-merge-codec-licensing-costs-are-too-high
- TechSpot「Dolby sues Snap over video compression patent claims」(AV1を巡る争い):https://www.techspot.com/news/111865-dolby-sues-snap-over-video-compression-patent-claims.html
自動車・Wi-Fi
- Avanci「Avanci Vehicle Welcomes Seven Chinese Automakers」(2026年3月30日):https://www.avanci.com/2026/03/30/avanci-vehicle-welcomes-seven-chinese-automakers/
- ip fray「Avanci signed up four Chinese automakers…」(11社、17件):https://ipfray.com/?p=11591
- ip fray「Simultaneous Great Wall Motor settlements suggest Avanci license」(20件):https://ipfray.com/?p=13419
- MLex「Avanci in more global auto licensing talks after China gains」(2026年9月4日):https://www.mlex.com/mlex/articles/2520934
- JUVE Patent「Avanci enters market for licensing wi-fi SEPs」(2026年3月4日):https://www.juve-patent.com/people-and-business/avanci-enters-market-for-licensing-wi-fi-seps/
- Avanci「Avanci Wi-Fi」:https://www.avanci.com/wi-fi/
- ip fray「Avanci launches WiFi 6 Vehicle licensing program」:https://ipfray.com/avanci-launches-wifi-6-vehicle-licensing-program-mercedes-benz-is-first-licensee/
- China Daily「Avanci streamlining 5G patent pathways」(2023年の料金):https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202312/11/WS65766194a31036711cce4a40.html
LNG・欧州の動き
- 欧州委員会のALNGへのコンフォートレター、米国司法省の動き、TTBERについては、下記の記事(SEPの総合ガイド)の、参考資料を、ご参照ください:英国政府によるSEP政策の見直しに関する解説(Lewis Silkin):https://www.lewissilkin.com/insights/2026/10/19/uk-government-charts-a-frandlier-course-on-seps-102o5ui
- EUのSEP規則案の撤回に関する解説(Pinsent Masons):https://www.pinsentmasons.com/out-law/news/eu-drops-standard-essential-patent-reform-plans
- IAM「Licensing negotiation groups branded ‘illegal buyers’ cartels’ in the US」:https://www.iam-media.com/index.php/organisations/avanci
英国の判断
- Tesla v. InterDigital・Avanci(英国最高裁、2026年7月)の解説:https://www.juve-patent.com/cases/uk-supreme-court-hands-tesla-landmark-win-in-avanci-5g-pool-licence-dispute/
日本の政策文書
- 特許庁「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」(初版2018年6月、改訂版2022年):https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/rev-seps-tebiki/guide-seps-ja.pdf
本記事について
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