標準必須特許(SEP)を巡る紛争は、世界中の裁判所で争われています。この記事では、2013年〜2020年の主要な判決・決定を、時系列で整理します。重要度は、「知財の栞」の主観的な評価(5段階)です。2021年以降の展開は、別の投稿で扱います。

判決は、事案ごとの事実関係に基づく判断です。国や裁判所によって、考え方が異なるため、一つの判決を、世界共通のルールとして読まないようご注意ください。

本記事は一般的な情報提供で、法的助言ではありません。 判決の内容は、判決文や、信頼できる解説に基づいて整理していますが、重要な判断をする場合は、原文と、専門家の助言をご確認ください。
この記事でわかること
- 2013〜2020年の、14の主要な判決・決定(時系列)
- 論点別(差止め、料率、算定基礎、競争法、管轄、サプライチェーン)の整理
- 2020年までの、SEP訴訟の潮流
- 判例を読むときの注意点
用語集(先にここだけ読んでもOK)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| SEP | 標準規格を実施するために、避けられない特許 |
| FRAND/RAND | 公正・合理的・非差別的な条件でライセンスするという、特許権者の誓約(米国では、RANDと呼ばれることが多い) |
| 差止め | 特許権者が、製品の製造・販売の停止を求める手続き |
| ASI(反訴訟差止命令) | 他国での訴訟や、判決の執行を禁じる命令 |
| EMV/SSPPU | ロイヤリティの算定基礎(最終製品か、最小の販売可能な特許実施単位か) |
| ホールドアップ/ホールドアウト | 特許権者が、標準採用後の立場を利用して、高額を要求すること/実施者が、ライセンスの交渉を引き延ばすこと |
1. 一覧表(時系列)
| 番号 | 判決・決定 | 時期 | 裁判所・機関 | 主な論点 | 重要度(主観) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Huawei v. InterDigital | 2013年2月(一審)、同年10月(控訴審) | 中国(深圳、広東) | FRAND料率、独占禁止法 | ★★★★☆ |
| 2 | Microsoft v. Motorola | 2013年4月 | 米国(ワシントン州西部連邦地裁) | RAND料率の算定 | ★★★★★ |
| 3 | In re Innovatio IP Ventures | 2013年9月 | 米国(イリノイ州北部連邦地裁) | 算定基礎(チップ) | ★★★★☆ |
| 4 | 欧州委員会 Motorola決定 | 2014年4月 | 欧州委員会 | 差止めと競争法 | ★★★★☆ |
| 5 | Samsung v. Apple(知財高裁大合議) | 2014年5月 | 日本(知財高裁) | 差止め、損害賠償 | ★★★★★ |
| 6 | Ericsson v. D-Link | 2014年12月 | 米国(連邦巡回区控訴裁) | 損害賠償の算定、陪審への説示 | ★★★★☆ |
| 7 | Huawei v. ZTE | 2015年7月 | EU司法裁判所 | 差止めと誠実交渉の手順 | ★★★★★ |
| 8 | TCL v. Ericsson | 2017年12月〜2019年12月 | 米国(カリフォルニア州中央地区、連邦巡回区控訴裁) | グローバルFRAND料率の算定 | ★★★★☆ |
| 9 | Huawei v. Samsung | 2018年1月 | 中国(深圳)、米国(ASI) | 差止め、誠実な交渉 | ★★★★☆ |
| 10 | Sisvel v. Haier | 2020年5月 | ドイツ(連邦通常裁判所) | 実施者の意思、FRANDオファー | ★★★★★ |
| 11 | FTC v. Qualcomm | 2020年8月 | 米国(第9巡回区控訴裁) | 独占禁止法 | ★★★★☆ |
| 12 | Nokia v. Daimler | 2020年8月〜11月 | ドイツ(マンハイム、ほか) | ライセンスの相手(サプライチェーン) | ★★★★★ |
| 13 | Unwired Planet v. Huawei(+Conversant) | 2020年8月 | 英国(最高裁) | グローバルFRAND条件の決定 | ★★★★★ |
| 14 | Sharp v. Daimler | 2020年9月 | ドイツ(ミュンヘン地裁) | 自動車SEP、差止め | ★★★★☆ |
2. 各判決の詳細
2-1. Huawei v. InterDigital(中国、2013年)
- 訴訟地:中国(深圳市中級人民法院、広東省高級人民法院)
- 日付:2013年2月4日(一審)、2013年10月28日(控訴審)
- 概要:InterDigital(IDC)は、2G/3Gの規格のSEPを持ち、Huaweiに、ライセンスを要求していました。Huaweiは、IDCの提示した条件が、AppleやSamsungに提示された条件より厳しいなどとして、独占禁止法違反と、FRAND条件の確定を求めて、提訴しました。
- 判断:一審は、IDCが市場支配的地位を濫用したと認め、2,000万元の損害賠償を命じました。また、IDCのSEPのFRAND料率は、製品の実際の販売価格の0.019%を超えないと判断しました。控訴審は、大部分を維持しました(抱き合わせの主張の扱いは、報道では、不明確とされています)。
- 意義:中国の裁判所が、SEPのライセンスについて、独占禁止法を適用し、料率の上限を判断した、国際的に注目された事例です。判決文は、公表されていません(営業秘密のため)。
- 重要度:★★★★☆
2-2. Microsoft v. Motorola(米国、2013年4月)
- 訴訟地:米国(ワシントン州西部連邦地方裁判所、Robart判事)
- 日付:2013年4月25日
- 概要:Motorolaは、H.264(動画)とIEEE 802.11(Wi-Fi)のSEPについて、Microsoftに、**最終製品価格の2.25%**を要求しました。Microsoftは、標準化団体に対する「RAND条件でライセンスする」という契約上の誓約に反するとして、契約違反を主張しました。
- 判断:裁判所は、Motorolaの要求した料率が、RANDの範囲に入らないと判断し、RAND料率とその範囲を、算定しました。
- H.264:0.555セント/台(範囲:0.555〜16.389セント)
- 802.11:3.471セント/台(Xbox向け。範囲:0.8〜19.5セント)。その他のMicrosoft製品は、下限の0.8セント
- 手法:従来の特許料算定の基準(ジョージア・パシフィック要因)を、SEPとRAND誓約の文脈に合わせて修正し、特許技術の価値と、標準に採用されたことによる価値を、区別して評価しました。
- その他:裁判所は、RAND誓約が、標準化団体との契約であり、実施者が、第三者受益者として、その履行を求められると判断しました。また、Motorolaには、これらの特許に基づく差止めは認められませんでした。2015年に、連邦第9巡回区控訴裁が、この判断を、支持しました。
- 意義:「RANDとは、具体的にいくらなのか」という問いに、裁判所が、体系的な手法で、答えを示した事例です。
- 重要度:★★★★★
2-3. In re Innovatio IP Ventures(米国、2013年9月)
- 訴訟地:米国(イリノイ州北部連邦地方裁判所、Holderman判事、MDL 2303)
- 日付:2013年9月27日
- 概要:特許の主張を専門とする企業(Innovatio)が、Wi-Fiを提供するホテルやカフェなどを、大量に提訴しました。Cisco、Netgear、Motorola Solutionsなどの機器メーカーが、顧客を守るために、訴訟に加わりました。
- 判断:Innovatioの19件の802.11のSEPについて、RAND料率は、Wi-Fiチップ1個あたり9.56セントと決めました。最終製品の価格ではなく、チップの価格を基礎にしました。
- 意義:ロイヤリティの算定基礎として、最終製品全体ではなく、特許技術が実装される部品(チップ)を基礎にする考え方を示した、初期の重要な例です。ロイヤリティの積み上げ(ロイヤリティ・スタッキング)の議論でも、引用されます。なお、この考え方は、「SSPPU」と呼ばれる概念に近いですが、判決が、その用語を使ったとは限りません。
- その後:2014年2月に、Ciscoは、270万ドルで和解したと報じられています。
- 重要度:★★★★☆
2-4. 欧州委員会 Motorola決定(EU、2014年4月)
- 日付:2014年4月29日
- 判断主体:欧州委員会(行政決定)
- 概要:Motorolaが、GPRS規格のSEPに基づいて、ドイツで、Appleの製品の販売の差止めを求め、執行した行為が問題になりました。
- 判断:FRAND条件でのライセンスを受ける意思のある実施者に対して、SEPに基づく差止めを求めることは、EU競争法102条(市場支配的地位の濫用)に違反すると判断しました(同日、Samsungが約束を申し出た事件では、約束を義務化する決定が出されました)。
- 意義:SEPに基づく差止めの行使が、競争法によって規律され得ることを示しました。その後のEU司法裁判所のHuawei v ZTE判決に、つながります。
- 重要度:★★★★☆
2-5. Samsung v. Apple(日本、2014年5月)
- 訴訟地:日本(知的財産高等裁判所・大合議)
- 日付:2014年5月16日(判決と決定)
- 概要:Samsungが、3G(UMTS)規格のSEPについて、Apple Japanの製品に対する差止めと、損害賠償を求めた事件です。同日、差止めに関する決定と、損害賠償に関する判決が、示されました。
- 判断の趣旨:FRAND宣言がされたSEPについて、FRAND条件でライセンスを受ける意思を持つ実施者に対する差止めの請求は、権利の濫用として許されないと判断されました。また、損害賠償も、FRAND条件でのライセンス料相当額を超える部分は、権利の濫用になると判断されました。
- 意義:日本のSEP実務の基本となる判断です。この枠組みは、その後も、日本の議論で参照されています。
- 重要度:★★★★★
2-6. Ericsson v. D-Link(米国、2014年12月)
- 訴訟地:米国(連邦巡回区控訴裁判所、CAFC)
- 日付:2014年12月4日
- 概要:Wi-Fi(802.11)のSEPについて、陪審の評決に対する、控訴審です。
- 判断の趣旨:SEPの損害賠償では、従来の基準(ジョージア・パシフィック要因)を、機械的に適用してはならないとしました。陪審には、RAND誓約の存在や、特許技術そのものの増分の価値(標準に採用されたことによる価値を除いたもの)に基づいて判断することを、説示する必要があるとして、損害賠償の部分を、取り消して差し戻しました。
- 意義:連邦控訴裁のレベルで、SEPの価値算定の特殊性と、陪審への説示の在り方を示した判断です。
- 重要度:★★★★☆
2-7. Huawei v. ZTE(EU、2015年7月)
- 訴訟地:EU司法裁判所(CJEU)。ドイツ(デュッセルドルフ地方裁判所)からの付託
- 日付:2015年7月16日
- 判断:SEPの権利者が、競争法上の濫用にならずに、差止めを求めるための手順と、実施者が、差止めを避けるための行動を、示しました。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 権利者が、侵害を実施者に通知する |
| 2 | 実施者が、FRAND条件でのライセンスを受ける意思を表明する |
| 3 | 権利者が、FRAND条件の具体的な書面のオファー(料率の算定方法を含む)を提示する |
| 4 | 実施者が、オファーを受け入れない場合に、誠実に、具体的な対案(カウンターオファー)を、速やかに提示する |
| 5 | 対案が拒絶された場合、実施者が、担保(銀行保証など)を提供する |
- 意義:世界で、最も引用されるSEP判例の一つです。抽象的な「誠実か、不誠実か」という議論を、具体的な手順に落とし込みました。各国の政策文書や、裁判例でも、参照されています。
- 重要度:★★★★★
2-8. TCL v. Ericsson(米国、2017年12月〜2019年12月)
- 訴訟地:米国(カリフォルニア州中央地区連邦地裁、Selna判事。控訴審は、連邦巡回区控訴裁)
- 日付:一審の判断は、2017年12月に示され、最終的な決定は、2018年3月9日。控訴審は、2019年12月5日。
- 概要:Ericssonの2G/3G/4GのSEPについて、裁判所が、拘束力のあるグローバルなライセンスのFRAND料率を、算定しました。裁判所は、トップダウン方式(標準全体の合計ロイヤリティを決め、その中で、各社の保有する特許の割合で配分する方法)を、修正して、比較可能なライセンスの分析とあわせて、使用しました。
- 控訴審:連邦巡回区控訴裁は、過去の未ライセンスの販売分に関する支払い(release payment)が、実質的に、損害賠償の性質を持つため、Ericssonには、陪審裁判を受ける権利があるとして、一審の判断を取り消しました。FRAND料率の計算そのものの当否は、判断していません。
- 意義:確定した判例ではありませんが、トップダウン方式などの算定手法を、詳細に実践した事例として、実務で参照されます。
- 重要度:★★★★☆
2-9. Huawei v. Samsung(中国・米国、2018年)
- 訴訟地:中国(深圳市中級人民法院)。関連して、米国(カリフォルニア州北部地区連邦地裁)
- 日付:2018年1月(判決の日付は、資料によって、1月4日、または1月11日)
- 概要:HuaweiとSamsungは、4G(LTE)のSEPを巡って、各国で訴訟を行っていました。
- 判断:深圳の裁判所は、2件のLTEのSEPの侵害を認め、Samsungが、交渉を不当に遅らせた(実施者として、誠実ではなかった)と判断して、差止めを命じました。報道では、中国で初めてのSEPの差止めとされています。ただし、判決後も、当事者が、交渉を続けられるとされました。
- その後:2018年4月に、米国のカリフォルニア州北部地区連邦地裁が、Samsungの申立てを認め、Huaweiが中国の差止め命令を執行することを、禁じる命令(ASI)を出しました。
- 意義:中国の裁判所が、実施者の交渉態度を理由に、SEPの差止めを認めた事例として、注目されました。各国の管轄権を巡る争いにも、つながります。
- 重要度:★★★★☆
2-10. Sisvel v. Haier(ドイツ、2020年5月)
- 訴訟地:ドイツ(連邦通常裁判所、BGH。事件番号 KZR 36/17)
- 日付:2020年5月5日(判決の理由は、同年7月ごろに公表)
- 概要:特許プールを運営するSisvelが、中国のHaierに対し、GPRS規格のSEPに基づく請求を行った事件です。
- 判断:
- 実施者は、明確かつ無条件に、FRAND条件でライセンスを受ける意思を示す必要があります。単に、「FRANDの交渉を検討する用意がある」という意思の表明では、足りません。裁判所は、Haierを、意思のないライセンス希望者と判断しました。
- 一方、実施者が適切に意思を示した場合、権利者は、FRANDのオファーを提示する義務があります。
- 実施者の間で条件に差があっても、客観的に正当な理由があれば、差別とはならない場合があります。
- 意義:Huawei v ZTEの手順を、ドイツの最上級の裁判所が、具体的に解釈した判断です。実施者に、迅速で明確な対応を求める点が、特徴です(ただし、権利者のFRANDオファーの義務も、明示しており、一方的に、権利者に有利な判断とは、言い切れません)。
- 重要度:★★★★★
2-11. FTC v. Qualcomm(米国、2020年8月)
- 訴訟地:米国(第9巡回区連邦控訴裁判所)
- 日付:2020年8月11日
- 概要:連邦取引委員会(FTC)が、Qualcommの「ライセンスを受けなければ、チップを供給しない」(No License, No Chips)というビジネスモデルなどが、独占禁止法に違反するとして、提訴しました。一審は、違反を認めましたが、控訴審は、これを覆しました。
- 判断:Qualcommのライセンス拒絶や、ライセンスのやり方は、独占禁止法(反トラスト法)上の違反には当たらないと判断しました。FRAND誓約の違反があったとしても、それは、独占禁止法ではなく、契約や特許法上の問題として扱うべきだ、という趣旨です。
- 注意:この判決は、独占禁止法の観点からの判断で、部品メーカーへのライセンスの拒絶が、FRAND義務の違反になるかどうかは、判断していません。
- 意義:米国での、独占禁止法によるSEPの権利行使への介入の範囲を、限定する方向に働いた、と評価されています。
- 重要度:★★★★☆
2-12. Nokia v. Daimler(ドイツ、2020年8月〜11月)
- 訴訟地:ドイツ(マンハイム地方裁判所ほか)
- 日付:マンハイム地裁の判断は、2020年8月18日
- 概要:NokiaのSEPに関して、ダイムラーは、自動車の通信モジュールを、部品メーカー(サプライヤー)から調達していました。ダイムラーは、「Nokiaは、サプライヤーに、ライセンスを供与すべきだ」と主張しました(部品メーカーへのライセンスを求める主張で、このシリーズの用語では、License to All(LTA)の考え方。Nokiaの、完成品メーカーに対してのみライセンスするという立場は、Access for All(AFA)の考え方にあたる)。Nokiaは、最終製品メーカー(ダイムラー)に対してのみ、ライセンスを提供するという立場でした。
- 判断:マンハイム地裁は、CJEUへの付託を行わず、Nokiaの差止請求を認めました。ミュンヘン地裁も、2020年10月に、別の特許について、差止めを認めました(これらの差止めは、この時点では、実際には、執行されていませんでした)。
- 付託:2020年11月26日に、デュッセルドルフ地裁が、10の質問を、CJEUに付託しました(サプライチェーンのどの段階でライセンスするのかを含む、FRANDの義務に関する質問)。
- 意義:SEP紛争が、スマートフォンから、自動車(IoT)へと広がった象徴的な事件です。「誰が、ライセンスを受けるのか」という論点は、この段階で、判断が分かれており、結論は、出ていませんでした。 その後の経緯は、別の投稿で扱います。
- 重要度:★★★★★
2-13. Unwired Planet v. Huawei(英国、2020年8月)
- 訴訟地:英国(最高裁判所)
- 日付:2020年8月26日
- 判断:英国の裁判所は、英国の特許の侵害訴訟を起点として、グローバルなFRANDライセンスの条件(料率、条項)を決定する管轄権を持つと判断しました。また、実施者が、そのような条件でのライセンスを拒否した場合には、英国の特許の侵害について、差止めを命じることができるとしました。
- Conversantの件:同じ判決の中で、Huawei・ZTEが、Conversantに対して争った事件も、併せて判断されました。中国企業側は、中国の裁判所のほうが適切だと主張しましたが、英国最高裁は、英国の裁判所の管轄を認めました。
- 意義:英国が、SEP紛争の重要な管轄(フォーラム)として、注目されるきっかけとなりました。以後、各国の管轄権を巡る議論が、活発になりました。
- 重要度:★★★★★
2-14. Sharp v. Daimler(ドイツ、2020年9月)
- 訴訟地:ドイツ(ミュンヘン地方裁判所、事件番号 7 O 8818/19)
- 日付:2020年9月10日
- 概要:SharpのLTEのSEPに基づく、ダイムラーに対する訴訟です。
- 判断:裁判所は、ダイムラーが特許を侵害し、意思のあるライセンス希望者ではないと判断して、差止めを認めました(執行には、550万ユーロの担保が必要とされました)。報道では、この判決の直後に、Sharpとダイムラーは、ライセンスの契約を結んだとされています。
- 意義:Nokiaの事件に続く、自動車SEPの訴訟です。ドイツでの、差止めのリスクを印象づけました。
- 重要度:★★★★☆
3. 論点別の整理
| 論点 | 関連する判決 | 見えてくること |
|---|---|---|
| 差止めと誠実な交渉 | 5(日本)、4・7(EU)、9(中国)、10・12・14(ドイツ)、13(英国) | 国によって、考え方が異なる。EUのHuawei v ZTEの手順が、共通の参照点 |
| 料率の算定 | 2・3・8(米国)、1・9(中国)、13(英国) | 比較可能なライセンス、トップダウン方式など、複数の手法がある |
| 算定基礎 | 3、6 | 最終製品か、部品かで、判断が分かれる。単一の基準はない |
| 競争法 | 4(EU)、1(中国)、11(米国) | 管轄によって、競争法の使い方が違う |
| 管轄・グローバルな条件 | 13(英国)、8・9 | 裁判所が、グローバルな条件を決めるか、各国の争いがどう調整されるか |
| サプライチェーン | 12・14(ドイツ) | 誰にライセンスするか。2020年の時点では、結論は出ていない |
4. 2020年までの潮流(整理)
- 交渉手順の重視:2015年のHuawei v ZTEにより、各国で参照される手順が示されました。その後、ドイツの2020年のSisvel v Haierが、実施者の意思の示し方を、具体化しました。
- 裁判所による料率の算定:米国(2013年)、中国(2013年)、英国(2020年)などで、裁判所が、料率や条件を、自ら決める例が増えました。
- 管轄を巡る争い:英国のグローバルな条件の決定や、中国・米国のASIなど、各国の裁判所の間で、緊張が高まりました。
- 自動車など、異業種への広がり:2020年のNokia v Daimlerを契機に、サプライチェーンの、どの段階でライセンスを受けるのかが、大きな論点になりました。
- ドイツの位置づけ:ドイツは、2010年代を通じて、差止めが比較的認められやすい国と見られてきました。ただし、Sisvel v Haierは、権利者のFRANDオファーの義務も、明示しています。
5. 判例を読むときの注意点
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 事案ごとの判断 | 事実関係に依存します。他の事案に、そのまま当てはまるとは限りません |
| 国ごとの違い | 差止め、料率、競争法の扱いは、国や裁判所によって異なります |
| 審級と確定 | 一審の判断が、控訴審で、取り消されることもあります(例:TCL v. Ericsson) |
| 非公開の判決 | 中国の判決などは、全文が公表されていない場合があり、報道や解説に基づく部分があります |
| 和解 | 和解で終わった場合、最終的な判断が、示されないことがあります |
6. 実務への示唆
| 立場 | 確認したい点 |
|---|---|
| 実施者(製品メーカー) | ライセンスを受ける意思を、明確かつ無条件に、記録に残す。カウンターオファーと担保の準備 |
| 特許権者 | FRAND条件の書面での提示と、算定の根拠。交渉の経緯の記録 |
| 知財・法務 | 紛争が起こり得る国(ドイツ、英国、中国、米国、日本など)の、考え方の違いの確認 |
| 事業開発 | ライセンスの相手(サプライチェーンのどの段階か)の整理 |
| 経営層 | 差止めのリスク、ライセンスのコスト、管轄の選択の見通し |
7. よくある質問(FAQ)
Q1. Huawei v. ZTEの手順を守れば、差止めは避けられますか?
手順を守ることは、重要ですが、国や裁判所によって、運用が異なります。ドイツでは、実施者に厳格な対応を求める傾向があります。
Q2. 日本では、SEPの差止めは、認められないのですか?
2014年の知財高裁大合議は、FRAND条件でライセンスを受ける意思を持つ実施者に対する差止めの請求を、権利の濫用としました。個別の事情によって、判断が分かれる可能性があるため、専門家にご相談ください。
Q3. グローバルなFRAND料率を、裁判所が決めることはありますか?
英国(2020年の最高裁判決)や、米国の一部の事例(TCL v. Ericssonなど)で、裁判所が、グローバルな条件を決めた例があります。ただし、TCL v. Ericssonは、控訴審で取り消されています。
Q4. 部品メーカーも、ライセンスを受けられますか?
自動車分野(Nokia v. Daimler)で争われましたが、2020年の時点では、結論は、出ていませんでした。
Q5. 中国の裁判所は、実施者に、有利ですか?
一概には言えません。IDCの事件では、料率の上限が決められましたが、Samsungの事件では、実施者の交渉態度を理由に、差止めが認められました。
Q6. 判例を、どう活用すればよいですか?
事案の事実関係、裁判所、時期を、確認した上で、論点ごとに整理し、専門家と相談しながら、自社の状況に当てはめてください。
8. まとめ
- 2013〜2020年のSEP訴訟は、料率の算定、交渉手順(Huawei v ZTE)、管轄を巡る争い、自動車への広がりという流れで、整理できます。
- 判決は、国や裁判所によって、考え方が異なります。単一の「世界標準」は、まだありません。
- サプライチェーンの論点など、2020年の時点で、結論が出ていない論点も、ありました。
- 2021年以降の展開は、別の投稿をご覧ください。
参考資料
米国
- Microsoft v. Motorola(2013年)の解説:https://www.jonesday.com/en/insights/2013/05/federal-judge-determines-rand-royalty-rate-for-standards-essential-patents-in-microsoft-motorola-dispute
- 同・連邦第9巡回区控訴裁(2015年)の解説:https://www.mintz.com/insights-center/viewpoints/2191/2015-08-ninth-circuit-upholds-judge-robarts-rand-determinations
- In re Innovatio IP Ventures(2013年)の判決文:https://www.govinfo.gov/content/pkg/USCOURTS-ilnd-1_11-cv-09308/pdf/USCOURTS-ilnd-1_11-cv-09308-4.pdf
- TCL v. Ericsson(連邦巡回区控訴裁、2019年)の判決文:https://www.wipo.int/wipolex/en/text/594153
中国
- Huawei v. InterDigital(2013年)の解説:https://www.pymnts.com/cpi-posts/huawei-v-interdigital-china-at-the-crossroads-of-antitrust-and-intellectual-property-competition-and-innovation
- Huawei v. Samsung(2018年)の解説:https://www.twobirds.com/en/insights/2018/global/shenzhen-court-grants-injunctions-in-sep-claims
- 同・ASIに関する解説:https://www.quinnemanuel.com/the-firm/publications/article-april-2018-qe-obtains-order-enjoining-huawei-from-enforcing-injunctions-against-samsung-in-china/
ドイツ
- Sisvel v. Haier(BGH、2020年)の英訳:https://www.finnegan.com/images/content/3/1/v2/311102/Sisvel-v-Haier.pdf
- 同・解説(McDermott):https://www.mwe.com/?p=131866
- Nokia v. Daimlerに関する、2020年のデュッセルドルフ地裁の付託の解説:https://www.taylorwessing.com/de/insights-and-events/insights/2021/01/sep-holders-obligation
- ミュンヘン地裁の判断(Sharp v. Daimler)に関する報道:https://www.juve-patent.com/cases/setback-for-daimler-in-connected-cars-dispute-against-avanci-pool-members/
- マンハイム地裁の判断の解説:https://www.hsfkramer.com/notes/crt/2020-08/clarification-on-the-application-of-frand-in-the-supply-chain-postponed
英国
- 英国最高裁判決(2020年)の解説:https://www.morganlewis.com/pubs/cellular-sep-owners-score-two-victories-in-europe
本記事について
本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。判決の内容は、判決文や報道に基づいて整理していますが、変更や訂正があり得ます。重要な判断をする際は、必ず判決文などの一次情報と、専門家の助言をご確認ください。誤りや更新が必要な点にお気づきの場合は、(連絡先・問い合わせ方法)までご連絡ください。
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