【知財ミステリー】なぜ「Spotify」はNGで「ラジオ・radiko」はセーフ?店舗BGMに潜む著作権法の“隠された大原則”

News@ip-shiori.com

カフェやレストラン、美容室に足を踏み入れたとき、心地よく流れてくるBGM。お店の雰囲気を演出するために、音楽は欠かせない要素です。

しかし、この店舗BGMを巡っては、素人目には「意味不明」とも思えるような、不思議な法律の境界線が存在することをご存知でしょうか。

  • 「お店で自分のSpotifyやApple Musicを流すと、JASRACから怒られる(許諾が必要)」
  • 「でも、お店で地上波ラジオやradiko(ラジコ)をそのまま流すなら、JASRACへの手続きは不要」

同じスピーカーから、同じように最新のヒット曲が流れているのに、なぜ一方はお金を払わなければならず、もう一方は完全に無料で許諾も不要なのでしょうか?

そこには、日本の著作権法が持つ「権利制限規定」の絶妙なバランスと、隠された合理的な背景があります。今回は、この音楽著作権の謎を徹底的に解き明かします!

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目次

1. 【一目でわかる】店舗BGMにおける音源別の「セーフ」と「アウト」

まずは、お店で音楽を流す際、何が法律(および利用規約)で許されており、何がJASRACなどの管理団体への手続きを求められるのか、最新の基準を整理してみましょう。

音源の種類JASRAC等の許諾注意点・備考
市販のCD・購入音源必要店舗面積に応じて年額または月額の使用料(500㎡以下なら年額6,000円など)が発生。
個人向けサブスク
(Spotify, Apple Music等)
不可(規約違反)JASRACへの支払いの前に、そもそも各サービスの利用規約で商用利用(店舗での再生)が禁止されています。
地上波ラジオ・テレビ
(AM / FM / 地上デジタル)
不要著作権法上の「権利制限規定」により、そのまま流す分には手続きは一切不要です。
radiko(ラジコ)
(インターネット同時配信)
不要※同時配信(リアルタイム)に限る。 令和3年の著作権法改正により、正式に手続き不要の対象となりました。
業務用BGMサービス
(USEN、OTORAKUなど)
不要月額料金の中にJASRAC等への著作権使用料が最初から含まれているため、個別手続きは不要です。

このように、自分で買ったCDや個人で契約しているサブスクを店内で流すのはNG(または要手続き)ですが、「ラジオ(radiko含む)」をそのまま流す行為は完全にフリー(手続き不要)となっています。

2. 謎を解く鍵:著作権法第38条第3項の「家庭用受信装置」マジック

なぜ、ラジオやテレビをお店で流す行為はお咎めなしなのでしょうか。その根拠は、著作権法第38条第3項に定められている「権利制限規定(著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる例外ルール)」にあります。

法律の条文(要約)を見てみましょう。

著作権法第38条第3項

放送され、有線放送され、又は放送同時配信等が行われる著作物は、営利を目的とせず、かつ聴衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

ここで注目すべきは、最後の「通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする」という一文(後段)です。

前半の文章(前段)では「営利を目的としない(非営利)なら無料で流していいよ」と書かれています。しかし、後半の一文があるおかげで、「たとえ営利目的の店舗であっても、家電量販店で買えるような普通のラジオやテレビ(家庭用受信装置)を使って、そのまま客席に流すのであれば、著作権侵害にはならない」という解釈が成立しているのです。

そして、近年のデジタル化に伴う令和3年(2021年)の著作権法改正によって、この条文の中に「放送同時配信等」という言葉が追加されました。これにより、インターネットを通じてラジオを同時配信している「radiko(リアルタイム配信)」も、地上波ラジオと全く同じ扱いで免除されることが法律上クリアになりました

3. なぜこのルールが成立している?隠された3つの背景

「同じ音楽なのに、ラジオだけ優遇されるのは不公平では?」と思うかもしれません。しかし、この仕組みが成立している背景には、非常に合理的な3つの理由があります。

背景①:「二重徴収(ダブルペイ)」の回避

ラジオやテレビで流れる音楽は、その放送局(NHKや民放各局)がJASRACなどの著作権管理団体と包括的な年間利用契約を結び、すでに巨額の著作権使用料を支払っています

すでに「世の中に発信される段階」で正当な対価が支払われているため、それを受信した店舗からさらに二重に使用料を徴収することは、権利の過剰な保護になりかねないという配慮があるのです。

背景②:メディアの「公共性」と「情報拡散」の担保

テレビやラジオは、災害情報や社会的なニュース、文化を広く国民に届けるための「公共のインフラ」です。もし「お店でラジオをつけたら違法」ということにしてしまうと、街の食堂や理髪店からラジオの音が消え、情報流通や文化の発展を阻害してしまいます。著作権法は「文化の発展」を究極の目的としているため、このようなメディアの特性を保護しているのです。

背景③:実務上の監視・取り締まりの限界

日本全国のすべての商店、オフィス、工場などで「いまラジオやテレビをつけて音楽を流していないか」をJASRACが1軒ずつ見回って取り締まることは、現実的に不可能です。実務上不可能な規制を作って社会を混乱させるよりは、法律で一律に免除したほうが合理的であるという、現実的な判断も働いています。

4. 一方で、なぜ「Spotify」や「市販CD」は有料(要許諾)なのか?

では、ラジオがセーフなら、なぜ自分で買ったCDや個人用のSpotifyをお店で流すのはダメなのでしょうか。

著作権法における最大の違いは、店舗による「楽曲のコントロール権」と「新たな市場の創出」にあります。

  • ラジオの場合お店側は「いま、どの曲が流れるか」を一切コントロールできません。たまたま流れてきた音楽をそのまま受動的に流しているだけです。
  • SpotifyやCDの場合お店側が自らの意思で「このカフェの雰囲気に合うジャズを流そう」「この美容室に合う最新ポップスのプレイリストを再生しよう」と、意図的に楽曲を選択(コントロール)しています。

店舗が主体的に音楽を選んで空間を演出する場合、それは単なる受信用インフラの利用ではなく、「音楽の価値を店舗の営業利益のために積極的に利用している(=新たなBGM市場を作っている)」とみなされます。そのため、放送局が支払っているものとは別に、店舗自身が「演奏権(伝達権)」としての対価を権利者に支払う義務(JASRACへの手続き)が生じるのです。

※なお、個人向けのSpotifyやApple Musicは、JASRACへの支払いの有無に関わらず、そもそもサービス自体の規約で「商用利用(店舗BGMなど)は一律禁止」となっていますので、法的な手続き以前にアカウント停止などのリスクがある点に注意が必要です。

5. 【最新の注意点】radikoでも「アウト」になる2つの落とし穴

「じゃあ、これからはお店のBGMを全部radikoにしよう!」と考えた店舗経営者の方、以下の2つの落とし穴にはくれぐれも注意してください。

① 「タイムフリー(見逃し・追っかけ配信)」は対象外!

著作権法第38条第3項で免除されるのは、あくまで放送と同時に流れる「リアルタイムの同時配信」だけです。radikoの便利な機能である「タイムフリー(過去1週間以内の番組を後から再生するオンデマンド機能)」を使って店内に流す行為は、権利制限の対象外(つまりJASRACへの許諾が必要)となります。

② 「通常の家庭用受信装置」の枠を超えたらアウト!

法律で許されているのは、あくまで「家庭用」のレベルです。

スマートフォンやPCから、一般的なコンパクトスピーカー1〜2台に接続して鳴らす程度であればセーフですが、ビルや大型店舗の壁や天井に埋め込まれた業務用の集中音響システム(ミキサーや多数のスピーカー)に接続して音を遠隔伝達する場合は、「家庭用受信装置の枠を超えている」と判断され、ラジオであってもJASRACへの申請と使用料支払いが必要になります。

まとめ:著作権法は「独占」と「利便性」のバランスでできている

一見すると「意味不明」に思える「Spotify=NG、ラジオ(radiko同時配信)=セーフ」というルール。

しかしその裏側には、「権利者の利益をしっかり守る(Spotify等の個別コントロール)」ことと、「社会全体での情報の流通や利便性を損なわない(ラジオ等の受動的受信)」という、著作権法が最も大切にしている「保護と利用のバランス」が綺麗に反映されているのです。

お店の個性を出して好きな音楽で空間をデザインしたい場合は、正しくJASRACに申請するか、最初から権利処理が含まれている業務用BGMアプリ(USENやOTORAKUなど)を活用するのが、現代のスマートな店舗経営と言えるでしょう。

📚 参照情報リスト

本記事は、以下の公的機関および著作権管理団体の公式公開情報に基づいて構成されています。

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