自動車、スマート家電、工場設備など、あらゆる製品がインターネットにつながり、通信技術(4Gや5Gなど)の標準必須特許(SEP)を巡るライセンス交渉は、異業種間でも、激しくなっています。
知財担当者や経営層が直面する、最も根本的な問いは、「SEPロイヤルティは、製品の何に対して、支払うのか」です。この記事では、算定を巡る四つの切り口(SSPPU、完成品ベース、トップダウン、比較方式)を、整理し、「完成品では数%なのに、部品では100%を超えることがある」という計算上の見え方と、日本の判断で使われてきた寄与率の正体を、2014年と2025年の判断を比較しながら、解説します。
本記事は、一般的な情報提供で、法的助言ではありません。SEPのロイヤルティは、国、裁判所、事案によって異なり、動きの速い分野です。料金は、変更されることがあります。具体的な案件は、専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- 算定の基礎(SSPPU、完成品)と、算定の手法(トップダウン、比較)の違い
- 累積ロイヤルティ率の実例(LTE、5G、3G)
- 「完成品で数%、部品で100%超」の、計算上の意味と、注意点
- 日本の2014年と2025年の判断の違いと、寄与率の二重計上の問題
- 各国の判断と、Avanciの実務
用語集(先にここだけ読んでもOK)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| SSPPU | 特許技術を実際に実装している、最小の販売可能な単位(例:通信チップ、通信モジュール)の価格を、算定の基礎にする考え方 |
| 完成品ベース(EMV) | スマートフォンや自動車などの、完成品の価格を、算定の基礎にする考え方 |
| トップダウン方式 | 規格全体の累積ロイヤルティを設定し、権利者のシェアを掛けて、個別の料率を出す方法 |
| 比較方式 | 実際に締結された、類似のライセンス契約を、ベンチマークにする方法 |
| 累積ロイヤルティ率 | ある規格について、すべての権利者のロイヤルティを、合計した率 |
| ロイヤルティ・スタッキング | 多数の権利者のロイヤルティが、積み重なって、製品のコストを圧迫すること |
| 寄与率(売上寄与率) | 製品の売上や利益に、規格への準拠が、どの程度貢献しているかの割合 |
| 総ロイヤルティ率 | ASUS事件(東京地裁、2025年)で使われた用語。規格全体のSEPのロイヤルティの合計の率。寄与を織り込んで、決めるとされた |
1. 要点
- 算定の基礎は、完成品ベースか、部品ベース(SSPPU)か、手法は、トップダウンか、比較かで、争われます。
- 累積ロイヤルティ率は、数%〜10%程度の例が、多く確認できます(LTE:約6〜10%、5G:約4.3〜5.3%、3G:5%)。
- 完成品の対価を、部品の価格で割ると、見かけ上、100%を超えることがあります。これは、計算上の見え方で、法的な原則では、ありません。
- 日本の2014年の判断は、売上寄与率と、**累積ロイヤルティの上限(5%)**を、別々の要素として、掛けました。2025年の判断は、総ロイヤルティ率に、寄与を織り込み、寄与率を、重ねて掛ける計算を、二重計上として、退けました。
- 世界の判断は、比較方式を中心にする国(英国、インド)と、トップダウンを併用・重視する国(中国、日本、ドイツの一部)が、あり、事案によります。
2. 算定を巡る四つの切り口
2-1. 算定の基礎:SSPPU と 完成品ベース
| 考え方 | 内容 | 主に主張する側 |
|---|---|---|
| SSPPU | 特許技術を実装している、最小の部品(通信チップ、通信モジュールなど)の取引価格を、基礎にする | 実施者側 |
| 完成品ベース(EMV) | 消費者に販売される、完成品(スマートフォン、自動車など)の価格を、基礎にする | 権利者側 |
SSPPUは、もともと、米国の特許侵害の損害賠償の議論から、SEPのライセンスの議論に、持ち込まれた概念です。米国の裁判所も、常に、SSPPUを、要求するわけでは、ありません。世界共通の基準は、なく、国、裁判所、事案によって、判断が分かれます。
2-2. 算定の手法:トップダウン と 比較方式
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| トップダウン | 規格全体の累積ロイヤルティ(上限)を想定・設定し、権利者の必須特許の割合(シェア)に応じて、個別の料率を出す |
| 比較方式(コンパラブル) | 実際に締結された、類似の契約を、ベンチマークにし、アンパッキング(特殊な要因の除去)と、リパッキング(再調整)を行う |
3. 累積ロイヤルティとは
累積ロイヤルティとは、実施者が、1つの標準規格(4G、5G、Wi-Fiなど)に準拠した製品を、製造販売するために、世界中の権利者に支払うべきライセンス料の合計です。
通信規格には、数万件もの必須特許があり、各権利者が、個別に、製品価格の1%などを、主張し、積み上げると、合計が、製品価格を超えかねません(ロイヤルティ・スタッキング)。これを避けるため、「規格全体の累積ロイヤルティの上限は、何%が妥当か」という、トップダウンの視点が、重視されます。
3-1. 累積ロイヤルティ率の実例
| 事案 | 規格 | 累積ロイヤルティ率 |
|---|---|---|
| アップル・サムスン事件(知財高裁大合議、2014年) | 3G(UMTS) | 5%(当事者が、前提とした、累積ロイヤルティの上限) |
| Unwired Planet v Huawei(英国、2017年) | 4G(LTE) | 約8.8%(判決文の記載) |
| TCL v Ericsson(米国、2017年) | 4G(LTE) | 6〜10%(のちに、手続上の理由で、取り消されたと報じられている) |
| Huawei v Samsung(中国、2018年) | 4G(LTE) | 6〜8% |
| OPPO v Nokia(中国・重慶、2023年) | 5G | 4.341〜5.273%(4Gの6〜8%を、入力値として算定。世界で初めての、5Gの累積ロイヤルティ率の判断) |
| Pantech v ASUS(東京地裁、2025年) | 4G(LTE)、5G対応製品 | LTE対応製品は9%、5G対応製品は最大8% |
したがって、「完成品の累積ロイヤルティは、数%〜10%程度」という整理は、これらの例と、おおむね合います。ただし、個々の数字は、事案、規格、算定の方法によって、異なります。
4. 「完成品では数%、部品では100%超」の意味
4-1. 計算上の見え方(架空の例)
以下は、計算の仕組みを説明するための、架空の数字です。
| 項目 | 仮定 |
|---|---|
| スマートフォンの価格 | 600ドル |
| 累積ロイヤルティ率(仮) | 5% |
| 規格全体のSEPの対価(絶対額) | 600ドル × 5% = 30ドル |
| 通信モジュールの価格 | 25ドル |
| 部品価格に対する、見かけ上の比率 | 30ドル ÷ 25ドル = 120% |
完成品で、ロイヤルティを計算する場合は、**価格の5%**に見えます。同じ、30ドルの対価を、部品の価格で割ると、**120%**に見えます。これは、「対価の絶対額」が、部品の価格より、大きいために、起きる、見かけ上の比率です。
4-2. この説明が、よく使われる理由と、注意点
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 権利者側の説明 | 技術の価値は、どの階層でライセンスしても、同じはず。部品ベースで、部品価格の数%に抑えると、同じ技術の価値が、過小評価される |
| 実施者側の説明 | 部品ベース(SSPPU)で、算定すれば、部品の価値に見合った、対価になるはず。完成品の価格を基礎にすると、特許と関係のない価値(デザイン、他の機能、ブランドなど)まで、含まれる |
| 注意 | 「部品に対して100%を超えるロイヤルティは、完全に妥当」と言い切れる、確立した法理は、ありません。これは、計算上の見え方の説明であり、どの階層で、いくらを、誰が払うかは、別の論点(LTAとAFA、二重取り)です |
また、4-1の「120%」は、累積ロイヤルティ率とは、別の数字です。累積ロイヤルティ率は、通常、完成品の価格に対する率で、「部品に対して100%の累積ロイヤルティ率」と、いう言い方は、誤解を招きやすいため、注意が必要です。
5. 日本の判断と、寄与率の正体
5-1. アップル・サムスン事件(知財高裁大合議、2014年5月16日)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事案 | UMTS(3G)のSEPに基づく、Samsungの損害賠償請求(FRAND条件によるライセンス料相当額)。Appleの製品(iPhone、iPadなど)が対象 |
| 計算式 | (製品の売上高 × 規格準拠の売上寄与率)× 累積ロイヤルティの上限(5%)÷ 必須特許の数(529件) |
| 売上寄与率(B) | 製品の売上のうち、UMTS規格に準拠していることが、貢献した割合 |
| 5% | 累積ロイヤルティの合計が、高くなりすぎないようにする(ロイヤルティ・スタッキングを避ける)ための、上限。当事者が、前提とした数字(業界の過去の発言などが、根拠) |
| 529件 | UMTS規格の必須特許の数。個々の特許の価値は、同じと推定し、件数で割った |
5-2. Pantech v ASUS(東京地裁、2025年4月10日)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事案 | LTEのSEPに基づく、損害賠償(FRAND条件によるライセンス料相当額)。ASUSの製品が対象 |
| 計算式 | 売上高 × FRAND料率。FRAND料率 = LTE規格全体の総ロイヤルティ率 ÷ LTEの必須特許の総数 × 本件の特許の件数 |
| 総ロイヤルティ率 | LTE対応製品は9%、5G対応製品は最大8%。Unwired Planet(約8.8%)、TCL v Ericsson(6〜10%)、Huawei v Samsung(6〜8%)の、上限の平均が、約8.9%であることを、参照 |
| 寄与の扱い | 総ロイヤルティ率を決める際に、通信以外の貢献(カメラ、CPU、ディスプレイ、バッテリー、音声、ブランドなど)が、売上に貢献していることを、織り込んだ。5G対応製品は、LTEの貢献が、LTE専用機より小さいとして、料率を、下げた |
| 必須特許の総数 | 1,300件(Unwired Planetの約800件は、2017年のもので、その後に増えたとして、採用せず。Unified Patentsの調査の1,817件も、有効性などを考慮して、採用せず) |
| 比較方式 | Pantechの、他社とのライセンス契約は、比較対象として、不十分とした |
5-3. 寄与率の二重計上の問題
ASUS事件で、被告は、「LTE規格の寄与率(25%)」を、複数の判決の累積ロイヤルティ率の平均(7.9%)に、さらに掛けて、0.0198%と、主張しました。裁判所は、これを、次の理由で、退けました。
- 総ロイヤルティ率は、すべてのSEPが、製品に使われた場合の、売上や利益への寄与を、考慮して、ロイヤルティ・スタッキングを避ける範囲で、決めるものである。
- 寄与率を、さらに掛けると、寄与を、二重に、掛けることになり、著しく過小な料率になる。
- アップル・サムスン事件の「累積ロイヤルティ」と、Unwired Planetの「累積ロイヤルティ」は、同じ概念である(文言を、形式的に比較してはならない)。
つまり、「寄与率」と「累積ロイヤルティ率」を、別々に、重ねて掛けると、二重計上になる場合があります。元の式(2014年)の、5%は、「寄与(B)を掛けた後の、売上に対する累積の上限」として、使われていますが、2025年の判断は、寄与を、総ロイヤルティ率の中に織り込む整理を、とっています。
5-4. 2014年と2025年の比較
| 項目 | 2014年(アップル・サムスン事件) | 2025年(Pantech v ASUS) |
|---|---|---|
| 規格 | 3G(UMTS) | 4G(LTE)、5G対応製品 |
| 基本の式 | (売上高 × 売上寄与率)× 累積ロイヤルティの上限5% ÷ 必須特許の数 | 売上高 × 総ロイヤルティ率 ÷ 必須特許の総数 × 特許の件数 |
| 寄与率 | 独立した要素として、掛ける | 総ロイヤルティ率に、織り込み済み。別に掛けると、二重計上 |
| 累積ロイヤルティ | 5%(当事者が、前提とした数字) | 9%(LTE)、最大8%(5G対応製品) |
| 必須特許の数 | 529件 | 1,300件(LTE) |
| 個々の特許の価値 | 同じと推定し、件数で割る | 同じと推定し、件数で割る |
| 枠組みの根拠 | 大合議判決の判断枠組み | 2019年の知財高裁大合議判決(特許法第102条第3項の算定の枠組み)に基づき、国際的な裁判例の動向を踏まえて、日本も、対応すべきとした |
| 2014年の判断との関係 | — | 当事者の主張立証の違い、規格の違いから、2014年の料率と、単純に、比較することは、適切でないとした |
5-5. 計算例(架空):二重計上の効果
以下は、仕組みを説明するための、架空の数字です。
| 計算 | 内容 |
|---|---|
| 売上高(1台あたり) | 600ドル |
| 2014年型の式 | 600ドル × 寄与率(仮に30%)= 180ドル。180ドル × 5% = 9ドル(規格全体のSEPの合計)。必須特許が529件なら、1件あたり 9ドル ÷ 529 = 約0.017ドル |
| 2025年型の式 | 600ドル × 総ロイヤルティ率(仮に9%)= 54ドル(規格全体のSEPの合計)。必須特許が1,300件なら、1件あたり 54ドル ÷ 1,300 = 約0.042ドル |
| 二重計上の例 | 総ロイヤルティ率(9%)に、さらに寄与率(仮に30%)を掛けると、600ドル × 9% × 30% = 16.2ドル。寄与が、二重に反映され、過小になる |
2014年型と2025年型は、式の前提(寄与率の位置、累積ロイヤルティの数字、必須特許の数)が異なるため、結果を、単純に、比較できません。
5-6. 経済産業省の考え方(令和2年)
経済産業省の「マルチコンポーネント製品に係る標準必須特許のフェアバリューの算定に関する考え方」(令和2年4月21日)は、①ライセンスの主体は、License to All(取引段階にかかわらず、希望するすべての者にライセンス)、②ロイヤルティは、トップダウン方式で、算定、③ロイヤルティは、SEPの技術を実施する主たる製品の価値のうち、**SEPの技術が貢献している部分(寄与率)**に基づいて、算定する、と整理しています。本質的な問題は、SSPPUかEMVかではなく、寄与率に基づく算定です。これは、法的拘束力のない考え方です。
6. 世界の判断:比較方式とトップダウン
| 国・事案 | 手法の傾向 |
|---|---|
| 英国(Unwired Planet、2017年) | 比較方式で、基準となる料率を出し、トップダウン(累積ロイヤルティと、ポートフォリオのシェア)を、検証として使った。累積ロイヤルティは、約8.8%(LTE) |
| 英国(InterDigital v Lenovo、2023年。Optis v Apple、2025年。Samsung v ZTE、2026年) | 比較方式が中心。トップダウンの検証は、比較方式と整合しない場合などに、退けられる例が、ある |
| 米国(TCL v Ericsson、2017年) | 累積ロイヤルティ(6〜10%)と、シェアによる算定。のちに、手続上の理由で、取り消されたと、報じられている |
| 中国(OPPO v Nokia、2023年) | トップダウン(5Gの累積ロイヤルティ率は、4.341〜5.273%)と、比較方式を、併用。5Gの単独モードの料率は、累積ロイヤルティ率と、Nokiaのポートフォリオの強さの比の積 |
| インド(Ericsson v Lava、2024年、デリー高等裁判所) | 比較方式を、トップダウンより、優先。端末の純販売価格の**1.05%**で、約244クロール・ルピー(約2,990万ドル)の損害賠償と、5%の利息を認めた。ライセンスの比較対象として、類似の企業との、54件のライセンスが、考慮された |
| 日本(アップル・サムスン事件、2014年。Pantech v ASUS、2025年) | トップダウン型の算定(累積ロイヤルティ÷必須特許の数)。2025年の判断は、比較方式を、併用せず(比較対象が、不十分と判断) |
| ドイツ(2026年のZTE v Samsung、ミュンヘン地裁) | 比較対象が不足するとして、トップダウン分析を行い、和解の金額を、提案したと報じられた |
「世界の司法実務は、トップダウンと経済分析の融合が、標準になっている」と、一言で、整理することは、できません。国と事案によって、比較方式が中心の場合と、トップダウンが中心の場合が、あります。
7. 算定基礎と、実務:Avanci と LTA/AFA
7-1. 完成品ベースの実務(Avanci)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 自動車向けのプールで、完成車メーカーと、直接契約し、車両単位の定額で、ライセンス |
| 料金の例 | 2023年の報道で、5Gは1台あたり32ドル(早期は29ドル)、4Gは最大20ドル。現在の料金は、公式サイトで、確認が必要 |
| 位置づけ | 価格に連動しない、完成品単位の定額。完成品の価格に対する率(EMV)で、計算するのとは、異なる |
| 広がり | 2026年9月に、中国のメーカーとの契約が20件に(中国の輸出上位10社のうち7社)。ただし、これは、実務の広がりで、LTAとAFAの議論の決着では、ありません |
7-2. LTAとAFA
| 立場 | 内容 |
|---|---|
| LTA(License to All) | 権利者は、取引段階にかかわらず、希望するすべての者に、ライセンスしなければならない。経済産業省は、この考え方を示している |
| AFA(Access for All) | 権利者が、ライセンスの相手の段階(通常は、完成品)を選べる |
世界的な結論は、出ていません。部品メーカーの立場では、部品ベースの算定(SSPPU)を、求める傾向があり、完成品メーカーを相手とするライセンスでは、完成品ベースが、中心になります。
7-3. 契約の実務で、確認すること
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 算定の基礎 | 完成品の価格か、部品の価格か、車両単位の定額か |
| ライセンスの主体 | 誰が、ライセンスを受け、費用を負担するか |
| 二重取り | サプライチェーンの別の段階で、重複した対価が、生じないか |
| 補償との整合 | サプライチェーンの契約の、特許補償の責任が、上流と下流で、矛盾していないか |
8. 実務のチェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 算定の基礎 | 完成品、部品(SSPPU)、車両単位の定額のいずれか。契約に、明記したか |
| 手法 | 比較方式か、トップダウンか。国・裁判所の傾向を、確認したか |
| 累積ロイヤルティ | 前提とする数字(数%〜10%程度の例)の、根拠を、確認したか |
| 寄与率 | 累積ロイヤルティ率の中に、寄与が、含まれていないか。二重に、反映していないか |
| 必須特許の数 | 分母(規格全体の必須特許の数)の、根拠を、確認したか。過剰宣言を、除いているか |
| 比較対象 | 比較可能なライセンスが、あるか。特殊な要因を、アンパックしたか |
| LTAとAFA | 誰が、ライセンスを受けるか。二重取りを、防ぐ条項があるか |
| 専門家 | 弁護士、弁理士、経済分析の専門家に、早期に相談したか |
9. ケーススタディ(架空の例)
以下は、イメージをつかむための架空の例です。実在の企業・案件ではありません。
通信モジュールを製造する部品メーカーA社に、SEPの権利者B社が、ライセンスを提示しました。B社は、完成品メーカーC社の完成品価格(600ドル)の5%(30ドル)を基準にして、部品の価格(25ドル)に対して、「実質的に、120%に当たる」と、説明しました。
- A社は、「部品に対する比率が、100%を超えるのは、計算上の見え方にすぎず、誰が、どの階層で、支払うかは、別の問題」と、整理しました。
- A社は、B社の累積ロイヤルティ率(5%)に、寄与率が、すでに織り込まれているか、別に掛けて、二重計上していないかを、確認しました。
- A社は、C社が、すでに、B社とライセンスを締結している場合の、二重取りを防ぐ条項を、契約に、入れました。
ポイントは、見かけ上の比率に、惑わされないこと、寄与の二重計上を避けること、ライセンスの主体と二重取りを、契約で整理することです。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. 累積ロイヤルティ率は、どれくらいですか?
事案によります。確認できる例は、3Gで5%(日本、2014年)、LTEで、約6〜10%(英国、米国、中国、日本)、5Gで、4.341〜5.273%(中国、2023年)です。
Q2. 部品に対して、100%を超えるロイヤルティは、妥当ですか?
完成品の対価の絶対額を、部品の価格で割ると、見かけ上、100%を超えることがあります。これは、計算上の説明で、法的な原則として、確立しているわけでは、ありません。実施者側は、部品ベース(SSPPU)の算定を、主張します。
Q3. 「寄与率」とは何ですか?
製品の売上や利益に、規格への準拠が、どの程度貢献しているかの割合です。2014年の日本の判断では、売上高に、独立して掛ける要素でした。2025年の判断は、総ロイヤルティ率に、寄与を織り込む整理で、寄与率を、重ねて掛けると、二重計上になるとしました。
Q4. 2014年と2025年の判断は、矛盾していますか?
裁判所は、2014年の判断と、2025年の判断を、当事者の主張立証と、規格の違いから、単純に比較できないとしました。2025年の判断は、2019年の知財高裁大合議判決の枠組みと、国際的な裁判例の動向を、踏まえています。
Q5. 世界の裁判所は、トップダウンを、採用していますか?
国と事案によります。英国とインドは、比較方式が中心です。中国と日本は、トップダウン型の算定が、中心です。ドイツでは、比較対象が不足する場合に、トップダウン分析が、行われた例があります。
Q6. Avanciは、世界標準ですか?
Avanciは、完成車メーカーを相手とする、車両単位の定額で、広がっています。ただし、LTAとAFAの議論は、確定しておらず、世界標準とまでは、言えません。
Q7. 完成品ベースと、部品ベースで、結果は、同じになりますか?
理論上、対価の絶対額が、同じになるように、設計できる、という説明があります。実際には、算定基礎、必須特許の数、累積ロイヤルティ率、寄与の扱いなど、前提によって、結果が、異なります。
11. まとめ
- 算定は、基礎(完成品か、部品か)と、手法(トップダウンか、比較か)の、組み合わせで、争われます。
- 累積ロイヤルティ率は、数%〜10%程度の例が、多く確認できます。
- 「完成品で数%、部品で100%超」は、対価の絶対額を、部品価格で割った、計算上の見え方で、法的な原則では、ありません。
- 日本の2014年の判断は、売上寄与率と**累積ロイヤルティの上限5%**を、別々に掛けました。2025年の判断は、総ロイヤルティ率に、寄与を織り込み、寄与率を、重ねて掛けることを、二重計上として、退けました。
- 世界の判断は、比較方式が中心の国と、トップダウンが中心の国に、分かれます。Avanciの実務は、LTAとAFAの議論の決着では、ありません。
今後のウォッチポイント
- 日本の裁判所の、総ロイヤルティ率の考え方の、上級審での扱い
- 東京地裁のSEP調停で、トップダウンと比較の併用が、どう運用されるか
- 5G、6Gでの、累積ロイヤルティ率の判断
- 英国最高裁の、Optis v Appleの判断
- IoT、自動車での、算定基礎(定額、率、部品ベース)の動き
参考資料
日本
- 東京地方裁判所民事第40部「Pantech v ASUS Japan」判決(2025年4月10日、令和4年(ワ)第7976号)の要約・判決文(裁判所、英語):https://www.courts.go.jp/ip/eng/assets/ip/eng/chizai_en/chizai_en-pdf-3678.pdf
- 知財高裁大合議「SAMSUNG versus APPLE」判決(2014年5月16日、平成25年(ネ)第10043号)の概要(日本弁理士会):https://www.jpaa.or.jp/en/img/ip-information/court-decisions/5_SAMSUNGversusAPPLECase.pdf
- 鈴木氏「IP High Court on the FRAND royalty」(計算式の解説、RIETI):https://www.rieti.go.jp/en/events/15060901/pdf/p2_2_suzuki.pdf
- 知財高裁「平成26年の判決・決定の概要」:https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/file/2014_08_6syo.pdf
- Chambers「Intellectual Property 2026」(日本の章。Apple事件とASUS事件の算定の整理):https://gpg-pdf.chambers.com/Intellectual-Property-2026/175/
- 経済産業省「マルチコンポーネント製品に係る標準必須特許のフェアバリューの算定に関する考え方」(令和2年4月21日):https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/008_s03_00.pdf
- 同・英語版:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/smart_mono/sep/200421sep_fairvalue_hp_eng.pdf
- 同・要点の解説(アンダーソン・毛利・友常):https://www.amt-law.com/asset/res/news_2022_pdf/publication_0025200_ja_001.pdf
- 特許庁「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」(改訂版、2022年):https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/rev-seps-tebiki/guide-seps-ja.pdf
海外の判断
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- IAM「China: SEPs and FRAND – litigation, policy and latest developments」:https://www.iam-media.com/hub/sepfrand-hub/2024/article/china-seps-and-frand-litigation-policy-and-latest-developments
- China IP Law Update「Chongqing No. 1 Intermediate People’s Court Sets Global FRAND Rate for 5G SEPs」:https://www.chinaiplawupdate.com/2023/12/chongqing-no-1-intermediate-peoples-court-sets-global-frand-rate-for-5g-seps-at-0-707-unit-in-nokia-oppo-case/
- Carpmaels & Ransford「Unwired Planet v Huawei – one FRAND to rule them all」:https://www.carpmaels.com/unwired-planet-v-huawei-one-frand-rule/
- InterDigital v Lenovo(高等法院、2023年):https://caselaw.nationalarchives.gov.uk/ewhc/pat/2023/539
- Wolters Kluwer「High Court demonstrates again its willingness to set FRAND rate」(比較方式が中心であることの解説):https://legalblogs.wolterskluwer.com/patent-blog/high-court-demonstrates-again-its-willingness-to-set-frand-rate-interdigital-v-lenovo/
- Samsung v ZTE(高等法院、2026年):https://caselaw.nationalarchives.gov.uk/ewhc/pat/2026/999
- ip fray「Munich I Regional Court judgment… ZTE v. Samsung」(ミュンヘン地裁のトップダウン分析):https://ipfray.com/?p=10425
- The Patent Lawyer「Delhi High Court awards Ericsson $29 million in SEP case」(Ericsson v Lava):https://patentlawyermagazine.com/delhi-high-court-awards-ericsson-29-million-in-sep-case/
- The Patent Lawyer「Ericsson v Lava」の解説(比較方式の優先):https://patentlawyermagazine.com/?p=22688
- BananaIP「Standard Essential Patents and Royalty Rates (Ericsson vs. Lava)」(1.05%、約244クロール・ルピー):https://www.bananaip.com/intellepedia/?p=101628
プール・料金
- China Daily「Avanci streamlining 5G patent pathways」(2023年の料金):https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202312/11/WS65766194a31036711cce4a40.html
- ip fray「Simultaneous Great Wall Motor settlements suggest Avanci license」(中国メーカーとの契約20件):https://ipfray.com/?p=13419
本記事について
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